エイソンテクノロジー(株)(横浜市中区本町4-43、Tel.045-228-7987)は、世界最高レベルの有機ELを前面に押し出すベンチャーカンパニーである。得意とするデバイスは照明用途の有機ELで、先ごろ実験でとんでもない製品を作り上げることに成功した。すなわち輝度が5万カンデラ(cd)/m²というもので、まさにサプライズの数字を叩き出した。製品寿命が非常に長いという特徴もある。今後の開発・量産および事業計画に国内外の注目が一気に集まることになるだろう。同社を率いる代表取締役社長の中川幸和氏に話を伺った。
―― 世界を驚かす輝度を達成した有機ELができ上がりましたね。
エイソンが開発したサプライズの
5万カンデラOLED
中川 エイソン方式による有機ELを追求してきたが、ついにここまで辿り着いた。考えている用途は照明向けであるが、角度に依存しない色変化の少ない光を追求してきて、スペック上はある程度できていたが、実デバイスとして完成したことは意味がある。何といっても、5万cd/m²を実現したのだ。
―― この新型有機ELは寿命も長いですか。
中川 もちろんだ。この有機ELの輝度を実用レベルの5000cdまで引き下げれば5万時間は楽に行けるだろう。通常出回っている有機ELは2000~3000cdがいいところだから、5000cdあれば十分に勝負できる。通常の蛍光材料でこれだけの数字を叩き出すことに成功し、リン光材料は使っていない。もちろん将来的にはリン光材料も考えており、さらに寿命が延びて発光効率も良くなるだろう。
―― 高輝度かつ長寿命を実現する技術の特徴はどこにあるのですか。
中川 エイソン型有機ELの最大の特徴は、電荷発生層を介して発光素子を多段積層するという技術を独自に立ち上げたことだ。また、拡散反射技術を用いることで、光の干渉が起きにくいという成果を生み出した。従来型の有機ELは、PN接続または導電性酸化物によるものだが、エイソン型有機ELはデバイス構造が異なり、何段でも多く積層できる。中間接続層のCGLがすべて有機物であることも奏功している。
ちなみに今回開発に成功した5万cdの有機ELは12段も積み込んでいる。市場で出回っている製品はほとんどが3段程度までであるから、エイソンの技術力がいかに傑出しているかが分かるだろう。
―― 国内生産体制は。
中川 2013年7月にルネサス滋賀工場の一角に開発センターとマザー工場を設け、ひたすら開発/少量産を繰り返してきた。ルネサス滋賀で動いているエイソン型有機EL製造装置は、山口の長州産業が創り上げた優れものだ。72mmパネルサイズで年間4000枚の生産が可能だ。
また、エイソン型の製造装置は1チャンバーで素子の成膜が可能だ。16年に予想される商業量産時には年間35万枚に引き上げる計画であり、具体的な設備投資計画も策定中だ。
―― 海外生産も検討中と聞きますが。
中川 中国の永太に新工場を建設する計画がある。今のところは20cm角で40万枚の能力を持つ設備を導入する。投資額は約8億円で、16年春の着工を考えている。また、同時に台湾および韓国での生産も検討中だ。しかし、これは自前で作るだけではなく、相手先ブランドでも出したいと思う。このため韓国、台湾をはじめとする海外の有力メーカーと水面下で事業提携の話し合いを続けている。これらの話がうまくいけば、いよいよエイソン型有機ELがグローバルに展開していくことになるだろう。
―― コストや消費電力についてはどうですか。
中川 この5万cdタイプができるまで、4万円/15cmのコストであったため、一般照明への応用にはまだまだ厳しい情勢だった。しかし、今回の開発で十分に家庭や工場で使う一般照明の世界が見えてきた。現状の売り込み先は医療施設、美術館、スタジオ、舞台などであるが、自動車向けにも十分に使用できることから、国内外のメーカーと交渉を進めている。
―― あくまでも照明用特化で行くのですか。
中川 当社の有機ELのターゲットは非常にはっきりしている。つまりは照明用に特化し、ディスプレーは全く考えていない。小さく、暗く、高い有機ELとはもうおさらばだ。当社は全力を挙げて大面積、長寿命、低価格を実現する有機EL光源素子の開発・量産を目指す。まだニッポンの有機ELは死んでいないことを証明してみせる。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年2月12日号6面 掲載)