世界的な半導体ブームがさらに加速する勢いである。もちろん、ブームのコア的な存在は、何といってもAIチップにあるのだ。現在ではデータセンターに使われるAIチップが中心であるが、今後は車載、スマホ、パソコンなどにも搭載され、凄まじい勢いで伸びていくだろう。
半導体生産金額が上昇していけば、これに対する設備投資はどうしても必要になる。2024年における投資水準はすでに16兆円には達することがほぼ確実と言われている。そしてまた2025年には史上最高の20兆円超えも予測されており、まさに異次元段階に入ったと言えるだろう。
評論家やアナリストの一部には、過剰投資を心配する向きがある。過去のシリコンサイクルを考えれば、それもうなずけないことはない。しかして筆者の見解は過剰とは見ていない。つまりは半導体生産額に対する設備投資の割合が25%以内であれば、決して投資過剰ではなく、シリコンサイクルの谷間は来ないと考えている。
世界中で巻き起こっている半導体投資ラッシュはいかにもエキサイティングすぎると言う印象はあるが、危険な水準ではないのだ。半導体生産額は24年段階で90兆円が見込まれ、そして25年には100兆円超えになると予想され、半導体設備投資が20兆円を超えてきても全く問題はない。
ただメモリー半導体などにおける投資の方向性は大変に難しいところがある。DRAMと言われる汎用メモリーの世界は、今や高帯域化に適したHBMがすごい勢いで伸びている。AIサーバーの中心にあるロジック半導体の周りに多くのHBMが搭載されることでかなりの需要が生まれる。またパソコンやスマホなどの汎用IT機器にDRAMは使われるわけであり、おそらくは24年のDRAMマーケットは前年比50%~60%以上伸びるとも言われている。
HBMについては、韓国SKハイニックスが最先行しており、ライバルの韓国サムスンは立ち遅れていた。米国のマイクロンも急追しているが、現状でもSKハイニックスの優位は動かない。さてここで問題になるのが、こうしたDRAM各社の設備投資なのだ。ひたすらにHBMを増強することばかりに奔走していては、次の時代の変化をつかめない。
CXLと呼ばれる次世代メモリーは、HBMよりもはるかに上と言う評価が高まっている。そうなればHBMを強化しつつも、一方でCXLに対する開発や投資にも手を抜くことはできない。
それにしても、半導体と言う世界は凄まじいスピードで動いており、次のトレンドが何になるかは予想することがかなり難しい。思ってもみない製品が一気に拡大することは日常茶飯事なのである。それだけに、現在がどう動いているかを常に定点観測し、同時に未来社会の姿を想定しなければならない。メタバースやエッジコンピューティング、そしてまたスマートシティなどを構成する電子デバイスは、どのような特性が必要かを深く考え、技術の方向性を見定め、さらに投資計画を練らなければならないのだ。
数年前の半導体の勝ち組が負け組になることはままあるのである。エヌビディアという米国のファブレス半導体メーカーが24年の世界半導体ランキングでぶっちぎりのトップになる事は確実であるが、これを3~4年前に予想した人は非常に少ない。さらに言えば、世界の株式時価総額のトップにエヌビディアが座っていることも予想できなかったことではある。
エヌビディアの業績は素晴らしいばかりであり、おそらくは24年に16兆円以上の売り上げとなり、競合のインテルやサムスンを大きく引き離していくだろう。ところが、打倒エヌビディアを掲げる半導体メーカーも数多い。今は無名なAI半導体ベンチャーが一気に抜け出してくる可能性も否定できない。
エヌビディアのファンドリーは、ほとんど台湾のTSMCが引き受けており、この流れが同社の巨大設備投資に結びついている。日本においては熊本におけるTSMCの第1工場、第2工場の投資額は3.2兆円と巨額であるが、これが爆大な経済効果を呼び込んでいる。
風が吹けば桶屋が儲かる、ではないが、半導体を取り巻く日本および世界の情勢はウルトラスピードで動いている。この流れを読みきった装置メーカーや材料メーカーが大きな勝利を収めることになるのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。