電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第593回

「動力マネジメント」で会社を使って自分を生かす!


半導体業界を駆け抜けてきたエヴァンリードの中西文太代表が語る言葉

2024/8/30

 このニッポンにおいて、企業で「何をしたいか」が明確でない社員は実のところ数多いのだ。会社としての目標または上司からの期待を自分の命題として設定することは、マジに考えて難しいことなのだ。人間というものは悲しいものであり、どこまでいっても自分の幸せと目に見えるものの世界だけを追求してしまう。いくら社員教育をしてもモチベーションは上がらないのである。

 こうした思いはサラリーマンと名のつく人たちであれば、いっぱい持っていることなのである。そしてまた、バブル崩壊以来、30数年間にわたって負け続けたニッポン、海外諸国に比べて給与水準が低いままであるニッポン、オリンピックで金メダルはいっぱい取るが、それなりの報奨を与えられないニッポン。

 パリオリンピックでは、金メダル20個という快挙を成し遂げた日本選手団であるが、膨大な報奨金をもらえる中国やロシアと比べては、まことにもって少なすぎる報奨金というしかない。お金にならなくても日本という国家を背負って戦う、という選手たちは報奨金を当てにしているわけではない。それだけに、柔道で東京オリンピック以来無敵の連勝を続けていた阿部詩選手の凄まじいまでの号泣は、別の意味で胸を打ったのだ。筆者はあの号泣を見ていて、お金にもならないのになんと素晴らしいことだと思えてならなかった。

 それはさておき、会社を使って自分を生かす、という方法論が見つかれば、そんなに幸せなことはないだろう。そうしたことを裏付けるような素晴らしい書籍がこのほど発刊されたのである。その本のタイトルは“会社を使って自分を生かす「動力マネジメント」とは?”というものだ。発行は玄文社、定価1650円で全国書店および各種ネットなどで販売中。

中西文太氏は著書のなかで「動力マネジメント」の重要性を説く
中西文太氏は著書のなかで「動力マネジメント」の重要性を説く
 この筆者は、エヴァンリード(株)の代表取締役である中西文太氏である。中西氏は1975年東京生まれ、青山学院大学経営学部を卒業後、大手製造業に入社し、半導体部門でマーケティング、企画、生産管理、採用人事に従事してきた。いわば、大学卒業後に半導体業界をまっしぐらに駆け抜けていった人なのである。

 この本の冒頭は、日本は負け組であるという常識をよく理解したほうがいい、との言葉ではじまっている。OECDの世界平均賃金調査(2022年)によれば、加盟国平均は年間で約748万円、そして日本は約581万円であり、OECD加盟国中で25位という結果であった。日本の優秀な人材は超安い賃金で使われているというわけだ。

 一方で、日本人の能力についてはどうだろうか。OECDのデータによれば、読解力1位、数的思考力1位、ITを活用した問題解決力1位と素晴らしい数字が出ているのだ。つまりは、非常にレベルの高い日本のマンパワーが不当な賃金水準にあることを意味している。

 中西文太氏は、こうしたデータを踏まえつつ、どのようなキーワードがあればニッポンは復活し、人々が幸せになるのかということを提示している。そのキーワードこそが「動力」であり、人を突き動かすエネルギーだと指摘する。さらに言えば、この「動力」をマネジメントすることが我が国には足りていないというのだ。

 どのような企業にあってもエンジニアにはひたすら求められるのが技術・開発力であり、営業系の仕事であればいかに人脈を作りうまく売っていくかが求められる。総務・管理系の仕事であれば、いかにスピーディーに処理し、正確な情報を共有することが求められる。ところがどっこい、多くの日本企業においては、社員を動かす「動力マネジメント」が欠けているのだと中西氏は明確に分析するのだ。

 「現在にあって、世界トップのアメリカが勝ち続けているのは、徹底的に合理性を追求する思考があると私は思います。ただ、人を集め、筋トレをしたから兵士が強くなったのではなく、一人一人のエネルギー、動力をどう引き出すかが重要かと指導者層がとらえているから、国の強化に成功したのです」(中西氏)

 この本の素晴らしいことは自分の人生と経営計画をリンクして考えるという理論にあるだろうと筆者は分析する。人は誰もが幸せになりたいと思っているわけだが、そのことが社会的な発展や国家的な発展、さらには自分の所属する組織の発展につながっていけば、それはまさにエポックメーキングなことなのである。中西氏は会社の目的を社員の前でこう宣言した。

 「半導体装置の専門家として新しい価値のある製品・技術・サービスを提供する」

 ここに向かっていけという目標感を与えたことによって、組織は活性化した。そしてこの方法論をあらゆる半導体関連カンパニーに提供したいというのが中西氏の考え方なのである。「動力マネジメント」について考察した本はほとんど見当たらないのであり、中西氏の執筆した書籍はまさに希少な価値をもつと筆者は思うのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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