ローム(株)(京都市右京区)は、1984年の半導体レーザーダイオード(LD)事業化から2024年で40周年を迎え、さらなる事業拡大に注力している。4月にはVCSELとLEDの特徴を融合した新製品として赤外線光源「VCSELED」(ビクセレッド)を発表し、用途をさらに広げていく方針だ。モジュール事業本部 フォトニクス事業部の山本忠司部長に現状と今後の展望を聞いた。
―― 光デバイスメーカーとして老舗の一角です。
山本 CD/DVD用の光源でLD事業の地歩を築き、その後はレーザープリンター用でシェアを高めるなど、堅実に実績を重ねてきた。近年では19年から欧州高級車向けのPM2.5センサーや、ロボット掃除機用の905nm LiDAR光源を商品化して、主にセンサー用途の拡大に力を入れてきた。
ちなみに、LiDAR用に関しては、19年のロボット掃除機用に次いで、21年には産機・物流向けにも進出し、905nm品のチャンネルあたりの出力を25Wから75W、23年には120Wまで高出力化し、同年から車載LiDAR市場に向けて開発を一層強化している。
―― 用途別の構成比と足元の市場環境について。
山本 他の電子デバイスと同様に、コロナ禍でIT需要が伸びた影響で21年までは好調で、光ディスク、プリンター、センサーが売り上げの3分の1ずつを占める構図だった。だが、22年以降はその反動が出て、一時的に在庫過多となった。24年に入って受注は戻り始めているが、プリンター用とセンサー用は回復基調にあるものの、光ディスク用はまだ戻りが弱い。
当社としては、ここ1~2年の短期ではプリンター用、中長期的にはセンサー用の需要が伸びていくとみている。
―― LiDAR向けについて詳しく。
山本 端面発光レーザーチップの高出力化と並行して、後工程ではCANパッケージに加えてSMD(表面実装型)パッケージも量産化し、8チャンネル化も実現している。高出力化についてはチャンネルあたり250Wで十分ではといわれており、当社もトップメーカーに肩を並べる水準に達している。
さらに付加価値を高めるため、主に素子技術の改良によって、チップの温度変化に伴う波長の変化を±9nmの範囲に小さくする技術を確立した。これがノイズを抑えられる要因になるため、車載用光源として当社のLDを選んでいただける理由の1つになった。
―― 先ごろ新製品としてVCSELEDを発表しましたね。
山本 VCSELチップを光拡散材入りの樹脂で封止したローム独自の赤外線光源のパッケージ製品で、10月から民生用、25年から車載用にサンプル発売を開始する予定だが、ありがたいことに発表直後から多くの反響を得ており開発スピードを加速させている。VCSELはこれまで少量しか生産していなかったが、VCSELEDを契機として本格量産を開始する。
VCSELEDは、車載用の顧客からドライバーモニタリングシステム(DMS)用光源として高い評価をいただいている。既存のDMS光源には赤外LEDが用いられてきたが、LEDは発光波長の幅が広いため、ドライバーに赤い光が照射されてしまう「赤見え」が課題だった。だが、VCSELは半値全幅が狭いため赤見えしない。加えて、LEDパッケージはドーム形状のため高さが2.5mm程度と厚みがあるが、VCSELEDは0.55mmと薄く、DMS以外の用途展開も期待できる。まずは光の放射角60度で製品化する予定だが、今後は出力や放射角の異なる製品をシリーズ展開していくつもりだ。
―― 生産面について。
山本 LDの前工程を本社工場、後工程をローム・ワコー(岡山県笠岡市)と中国・天津市のローム・セミコンダクター・チャイナで手がけている。今後は需要に応じてウエハーサイズを大口径化し、生産能力を順次拡大していく予定だ。製造装置は将来を見越してインチアップできる仕様で準備してきているので、対応に時間は要さない。
―― 今後の戦略をお聞かせ下さい。
山本 車載LiDAR向けの需要が本格的に拡大するのはこれからだが、その拡大にしっかりと追随する。それと並行して、将来市場として次世代ハードディスクの熱アシスト磁気記録(HAMR)用光源とシリコンフォトニクスに注目している。なかでもHAMR用光源はかなり長い時間をかけて開発しており、いよいよ立ち上がりが期待されているHAMR方式のHDD市場が拡大してくるタイミングを適切に捉えられるように準備を進めている。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏/副編集長 中村剛)
本紙2024年8月1日号4面 掲載