三菱電機(株)の自動車機器事業分社化により、新会社「三菱電機モビリティ(株)」(東京都千代田区)が誕生し、2024年4月1日から本格始動している。自動車業界が100年に一度の大変革期の渦中にあるなかで同社の強みをどう打ち出し、この大潮流に挑もうとしているのだろうか。自動車関連業界を一筋に歩み、06年から三菱電機グループの自動車関連でキャリアを重ねてきた同社経営企画ユニット経営企画部長の東田篤武氏にお聞きした。
―― 貴社発足の経緯は。
東田 周知のとおり自動車業界は大変革期の真っ只中にあり、変革が想像を絶する速さで進んでいる。三菱電機としてもこのスピード感に追随すべく、自動車機器事業を分社化して迅速に具現化していくことが必要との判断に至り当社が設立された。ちなみに三菱電機の自動車機器事業の売上高は24年度に9000億円を見込み、25年度は8000億円超、営業利益率4%超を予想。従業員数は世界で約2.3万人、このうち日本国内は約1万人弱の規模を誇る。
―― 貴社の概要と戦略を。
東田 まずは継承した自動車機器事業の構造改革から始まっている。①CASE関連事業、②レジリエント事業、③課題事業、④全社成長事業への貢献という4つの柱を軸に進めている。①では「A」と「E」、つまり自動運転やADAS、電動化に焦点を絞り、パートナーとの協業シナジーでの成長戦略を描いている。5月後半に発表した次世代電動化関連製品に関するアイシンとの合弁会社(JV)設立の基本合意はまさにその一例だ。②は電動パワーステアリング製品など当社が強みを活かせる製品分野に選択と集中を図りながら、収益重視で改善を図る戦略である。
―― ③と④については。
東田 ①と②が当社の重点領域とした場合、カーナビゲーションやディスプレーなどのカーマルチメディアは課題事業に属すると判断した。25年度にはこれら課題事業の規模縮小を図り、健全に適正化していく。一方④は、自動車機器事業で培ったものづくり力や資産を、三菱電機グループ内のFA制御システムや空調冷熱システム事業へ転用してグループの成長領域に貢献していくことを意味する。
―― アイシンとのJVについて詳細を。
東田 JVではモーターとインバーター、これらの制御ソフトウエアを開発・生産・販売をしていく。当社からモーター、インバーターの事業自体をJVに移管し、アイシンからは車両システム全体でのインテグレーション視点から開発に携われる開発者に加わっていただくかたちを想定している。当社としては自動車目線で見たモーター、インバーターの開発・生産というシナジー効果が得られ、アイシンは電動ユニットでのフルラインアップ化にJVの貢献が期待できる点がモチベーションになる。なお、諸般の手続きもあり、JV設立は25年上期になるだろう。
―― ADASについては。
東田 現状、当社CASEの主な製品群は前述のモーター、インバーター、そして高精度ロケーター、ドライバーモニタリングシステム(DMS)である。今後、自動運転に向けてセンサーが複合的に組み合わされていくシナリオを想定すると、現状の当社手持ち製品のみでは不足感があるため、M&AやJV、その他あらゆるすべての可能性を視野に入れてADASで勝負していくための戦略を検討中である。DMSではカメラからの情報を画像分析して、ドライバーの眠気やわき見を検知し警告する機能を有した製品の採用実績があり、三菱電機グループ内の技術資産、例えば脈拍などの生体センシング技術を活用した独自の差別化機能や後部座席まで包含した幼児置き去り検知システムなども開発中である。
―― レジリエント事業における製品群は。
東田 電動パワーステアリング製品、カーメカトロニクス、オルタネーター、スターターが主要製品群であり、いずれも収益性が期待できるとみて、現状では注力製品に位置づけている。ただし、オルタネーターやスターターは近未来にエンジン要素が自動車から無くなるころには不要となっていくと想定している。
―― 生産拠点は。
東田 マザー工場は兵庫県の姫路事業所、三田事業所であり、開発から生産まで一貫で担っている。そのほか、海外製造拠点11カ所、海外テクニカルセンター8カ所、営業拠点は世界13カ所にある。今後は海外拠点の生産ヤードをスリム化する計画であり、例えばエンジン部品を製造していたスペースを三菱電機グループのFA関連や空調冷熱関連に転用するなど、グループ全体での最適解も見据えながら遂行していく。
―― 今後に向けて。
東田 このようにスピード感をもって構造改革に挑んでいる真っ只中であり、これからまた大きく変化していくことになるだろう。その中で、最も重視すべきは収益性の確保。この視点を軸に、あらゆる事象に対して判断していきたい。三菱電機グループの技術資産を活用できる強み、自動車業界のなかで独立系としてパートナーとともに強みを活かし、成長あるのみで挑んでいく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年7月18日号2面 掲載