成田国際空港(株)(千葉県成田市)は、空港内に約270店が出店する大規模な商業エリアを展開し、2023年度の売上高は1441億円と過去最高を更新した。コロナ禍からの回復が鮮明で、超高額商品を購入するインバウンド(訪日外国人)の姿も見られるようになっているという。同社上席執行役員で営業部門長の神崎俊明氏に足元の状況などについて聞いた。
―― 商業エリアの概要から伺います。
神崎 第1~第3のすべてのターミナルに商業エリアを配置しており、全体で約3万1000m²もの規模を有する。改修工事中の区画などを除き、現在は約270店が営業している。
私はよく「成田空港ではパスポートと財布さえ持って来れば旅に必要なすべてのものを揃えられる」と言っている。物販、飲食、サービスとあらゆる業種を網羅しているし、各カテゴリーともバリエーションが非常に豊富だ。物販はファッション、アウトドア、雑貨、家電など、飲食は和食・洋食・中華・エスニックと、幅広いジャンルの店舗が揃っている。また、保安検査を通過した先の制限エリアには免税店もある。酒類やタバコ、化粧品を販売する総合免税店のほか、ブランドブティックのラインアップも充実している。
―― 保安検査場通過前の一般エリアにも様々な店舗が集結しています。
神崎 空港は目的地にはならない場所とされており、世界的に見れば制限エリア内に店舗を集中させるのが一般的。だが、成田では開港当初から一般エリアにもまとまった商業エリアを設けている。「マザーハウス」「金子眼鏡店」など、市中の商業施設にも入っている店舗も一般エリアで営業している。
成田空港は都心から約60km離れており、海外に行こうとするお客様は時間に余裕を持って家を出る傾向にある。渋滞や電車遅延がないと出発の3~4時間前に空港に到着する方も多い。搭乗手続きや保安検査の受付時間前であっても、一般エリアの店舗が充実していれば空いた時間を楽しんでいただける。こうした「都心から遠いことをポジティブに捉えた」店舗展開は、我々運営側も意識すべき点だと思う。
―― 航空需要は回復してきています。
神崎 23年度の売り上げは、上期がコロナ禍前(19年度)比8割程度だったが、下期はコロナ禍前を上回った。円安の影響もあって日本人客はコロナ禍前の5割程度にとどまっており、お客様の中心はインバウンドだ。そのなかでも中国・台湾・香港のお客様が売り上げを牽引している。円安はインバウンドにおける客単価を押し上げている。特に免税店のブランドブティックではその傾向が顕著だ。富裕層は空港という時間が十分にない場所であっても時計やジュエリーといった高額商品を即決で買って行かれる。数百万円の商品や、一千万円級の商品が販売された実績もある。こうした超高額商品は市中の顧客がついている店が仕入れるのが通常だが、成田空港にあるブティックの売り上げが評価されるようになり、仕入れを実現できるようになった。ブランド側とは良い関係を構築できている。
―― 23年9月には第2ターミナル制限エリア内に「JAPAN FOOD HALL」がオープンしました。
神崎 海外のお客様が日本で味わいたい食を集めた飲食ゾーンとして寿司、うなぎ、ラーメン、牛かつなどの10店が出店している。インバウンドが数千円するような高単価のメニューを注文するのを目にすることもある。最大の特徴は空港施設として日本で唯一、制限エリアにテラス席を設けたこと。航空機を間近に見ながら食事をお楽しみいただける。おかげさまで非常に好評で、23年度に成田空港は空港格付け評価を実施するSKYTRAX社から5スター(5つ星)をいただいたが、講評ではJAPAN FOOD HALLも高く評価いただいた。またCNNの報道によると、米メディア「フード&ワイン」が調査した世界で最良の飲食物を提供する空港ランキングでは、成田空港が2位にランクインしたという。成田空港は高品質な食が大きな強みとなっている。
―― 巷では人手不足が叫ばれていますが、成田空港はどうですか。
神崎 商業エリアのみならず、グランドハンドリングといった技術職なども含め人手不足は深刻だ。それでも各ターミナルで1万人以上が働いており、商業エリアとしては従業員も客層の一つになっている。自分の職場ですべての買い物を済ませるとは限らないと思うが、平日のランチ以外にも、例えばマザーハウスで仕事用のバッグを買ったり、空いた時間に郵便局で用事を済ませたりする需要はあるようだ。
―― 今後商業エリアが拡張・増床する余地は。
神崎 LCCが就航する第3ターミナルの制限エリアでは、商業エリアを拡張する余地があると見ている。成田では、ターミナルの集約化・航空物流機能の高度化などを目指す「新しい成田空港構想」が議論されている。具体化するのはこれからだが、現ターミナルでも新店誘致などを行い、商業施設としての鮮度維持を図っていきたい。
(聞き手・編集長 高橋直也/安田遥香記者)
商業施設新聞2553号(2024年7月9日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.440