コネクター世界大手のTEコネクティビティ(スイス)は、センサー、アンテナ、スイッチ、ケーブルアセンブリーなど幅広い電子部品を世界展開し、2023年9月期通期の売上高は約160億ドル、営業利益率は14%と健闘している。金額ベースで車載向け約6割、産機向け約3割弱を占め、高品質・高精度な製品群で堅実に成長を続けている。日本法人タイコエレクトロニクスジャパン合同会社(川崎市高津区、TEジャパン)の代表取締役社長兼職務執行者の鶴山修司氏に、この1年間の手応え、車載向けでの取り組み、国内工場の改善点などをお聞きした。
―― 日本法人の社長就任から1年が経ちました。
鶴山 この1年で最も変化を感じたのは人の部分である。当社は日本市場に根付いて65年の歴史があり、日本のお客様に寄り添った活動や、お客様のスペックや地域性を重んじた設計に取り組んできた。ただし近年はその流れが変化し、当社からお客様に最適なソリューションを提案・提供する機会が増えている。それはすなわち、この流れに介在する人の変化でもある。
―― ソリューション提案に向けての変化点は。
鶴山 当社では3世代開発コンセプトを導入しており、車載向けの例では現行品を低価格で高品質に改善して提供するのが第1世代、第2世代はサイズの小型化、コストの大幅削減など次世代車両に向けた改良製品、そして第3世代は5年後の使用を見据えた開発フェーズの製品である。
これを前提とする変化点は、24年に入り日本の車載関連展示会などで当社が展示紹介する製品群は、日本のお客様が今後の開発に必要とすることを想定した第2世代の製品群だが、これらは中国市場において第1世代、つまりすでに4年くらい車両搭載実績がある製品をベースに信頼性の保証ができている製品となる。そのため、日本のお客様のeモビリティーへのチャレンジに対し、当社は数年の市場実績ある製品群を日本のお客様向けにローカライゼーションして提案することで貢献できるという大きな変化が起こっている。
―― 世界と日本を知る貴社ならではの貢献ですね。
鶴山 CO2排出量など環境を重視する欧州や北米のカリフォルニア州などでは、早くから自動車の電動化が1つのソリューションとして掲げられ、少しずつ成長を遂げてきた。中国市場では同様の変化が4倍くらいのスピードで進み、世界を先行するに至っている。この中国と当社日本の両国エンジニアが連携を図りながら、中国市場の最先端で実績ある製品群を今後、日本市場で日本のお客様に最適解を提案し得るか、と双方が同じ目線で設計開発が始められるに至ったことは大きな変化である。また、ゾーンアーキテクチャーでも海外案件でソリューション提供した実績から、日本のお客様からも相談を受けることが増えてきた。
―― SDVによる影響は。
鶴山 高速データ通信でコネクターの果たす役割は大きい。高速大容量通信でコネクターの構造が複雑化しがちななか、省スペースに貢献する小型コネクターで大容量データを高速かつ確実に伝送する点は、コネクターメーカーの力のみせどころだ。当社はサーバー系高速通信から医療系の高信頼通信など10の異なる事業部が存在し、これらの知見を自動車向けに総括して高速通信に落とし込み、価格とバランスのとれたソリューション提案が可能である。
―― 生産面での改善点は。
鶴山 当社は日本に掛川工場(静岡県)がある。この1年間を通じて生産効率を抜本から徹底的に見直し、従来比10%強の増強が図れた。具体的には、VSM(バリューストリームマネジメント)構造に変革した。当社製品は、スタンピング(金属加工)、プレーティング(メッキ)、モールディング(樹脂成型)、最終アセンブリー(組立)などの工程を経て生産する。この前後の工程内に与える影響を各自が意識しながら生産効率を上げる取り組みに対し、前年比3倍の投資を実行中であり、24年9月で完了予定である。これは従業員がお客様への細やかな配慮も含めて自主的に率先して動ける人材に育つ好機にもなった。
―― 増強などは。
鶴山 長年製品を提供しているため、掛川工場には老朽化した設備や型が多数ある。熟練工のおかげで問題なく生産できているが、今後も見据えて新しい型を新設し、新しい設備を十数台規模で増設した。同時に吐き出しアップ(1工程4キャビティーから8キャビティーに変更など)し、生産効率も高めた。さらにボトルネック工程の可視化や改善により、ラインスピードの2桁短縮も図れた。
―― 今後の飛躍への準備は万全ですね。
鶴山 10事業すべてが日本に揃っており、あらゆる事業分野でお客様に価値あるソリューションをお届けしていく。25~29年度までの5カ年計画では1桁後半の年率成長を見据えている。社員のモチベーション向上では、会社の屋台骨を支える人たちに注目するアワードやウェルビーング、女性活躍を支援するWINなども実行している。さらなる飛躍を社員一丸で成し遂げていく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年7月11日号14面 掲載