大阪・南港のオフィス、ホール、公共ゾーン、商業ゾーンで構成される大型複合施設「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」が4月に開業30周年を迎えた。商業ゾーンでは、有力チェーン店を中心にフードコートや室内遊園地を設け、就労者や家族連れの飲食・遊び需要を満たしている。運営を行うアジア太平洋トレードセンター(株) 広報企画室長の三浦伸夫氏(所属・役職は取材時のもの)に話を聞いた。
―― ATCの沿革を。
三浦 1994年4月に大阪市の第3セクターとして世界各国からの製品輸入促進を図るため、国際卸売マート「ITM(インターナショナルトレードマート)」を中心とした施設として開業した。同じ94年9月に関西国際空港が開港したこともあり、関西経済の国際化・活性化を担う施設としても期待されていた。しかしながら、バブル経済の崩壊や流通構造の変化によって卸売事業が苦戦し、ITMの業態変更を余儀なくされ、現在は主にオフィス、ATCホール、公共ゾーン、商業ゾーンで構成する。
―― 施設概要について。
三浦 ITM棟とO's棟(北館と南館)の2棟があり、敷地6万7000m²、総延べ33万6000m²の規模を誇る。この2棟は通路で2階部分が接続され、商業ゾーンはITM棟の2階とO's棟の2~3階に構築している。開業当初はボウリング場や屋内遊戯施設を備え、個性的な店舗を中心に70店を集積していたが、周辺施設との競争が激化したこともあり、現在は50店で、うち飲食店が30店を占める。
ATCの来館者特性は平日と休日で大きく変わる。平日はITM棟・O's棟に入居するオフィス・大阪市各部局(建設局、港湾局、水道局ほか)の就労者や近隣の大阪府咲洲庁舎で働く就労者が訪れ、休日はATCホールで開催されるイベントへの来訪者、特に家族連れが中心となる。これらの就労者や来訪者は飲食に対するニーズが強いため、2022年4月に商業ゾーンの一部改装を行い、フードコート「シーサイドテラス」を開業し、繁忙期の混雑緩和を実現している。
―― 特徴は。
三浦 オフィス、ATCホール、商業ゾーン、公共ゾーンが互いに影響し合い、1つの力になっている。オフィスは23~24年にかけて大阪・関西万博の工事関連企業が相次いで入居し、賃料収入は年々伸びており、現在の入居率は90%と高い水準だ。ATCホールも、トミカ博やプラレール博などの子ども向けのイベント来場者がコロナ前の水準に戻りつつあり、稼働率は徐々に上がっている。こうしてオフィスの入居率やATCホールの稼働率が好調に推移することで、商業ゾーンの飲食需要がより高まるという構図だ。
近年は韓国アイドルグループの写真展や人気アニメの展示会といったイベントを積極的に誘致するなど、コンテンツ系のイベントにも力を入れている。ATCは大阪ベイエリアMICE推進の参加施設でもあり、大阪・関西万博の開催後は国際会議やコンベンションの誘致を進めている。
―― 商業ゾーンの現況を。
三浦 開業時はファッション系のテナントも多かったが、現在、物販店は「ダイソー」と「ABC-MART」が主な店舗となっている。以前は骨の雑貨店や絵画の雑貨店など個性的な店舗もあったが、最近は「ガスト」「サイゼリヤ」「鳥貴族」といったファミリーに人気のチェーン店が増えている。ATCは店舗を単体で捉えず、サポート施設として総合的に見ており、同質化よりも、味・サービスの安心感を重視しているためだ。
もちろん、特徴的な店舗も存在する。23年に(株)ロゴスコーポレーションがバーベキューエリアを設けた「ロゴスBBQスタジアム&カフェ」を開店し、直近では「2025大阪・関西万博オフィシャルストア」もオープンした。ITM棟の5階に入る大型室内遊園地「あそびマーレ」は全天候型施設として多くの家族連れで賑わい、7月には開業10周年を迎え、新しい遊戯機の導入も予定している。
―― 最後に、今後の課題や将来展望をお聞かせください。
三浦 喫緊の課題として、建物・設備の改修や店舗区画の更新が挙げられる。また、海に面した立地を生かして広い空間を交流できる場・憩いの場のサードプレイスとして活用し、参加型のキッズダンスフェスやBEATLES STREET、コスプレイベントといったチャレンジする人を応援する場を創出する。その一環として、4月に屋外ステージ「海辺のステージ」の改修を行い、日除け・雨除けの開閉式テントを設置した。23年度の年間来館者数は627万人とコロナ前(700万人)には届かなかったが、こうしたイベント強化でATCのファンづくりに努めていきたい。
(聞き手・副編集長 岡田光)
商業施設新聞2550号(2024年6月18日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.437