電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第585回

明治42年創業の「味の素」の餃子は東京五輪選手村の金メダル!


半導体パッケージ基板用絶縁材料でもシェア90%以上を持つ凄みも見せつける

2024/6/28

 観客が全くいないという寂しさの中で行われた2021年の東京オリンピックは、ある種味気ないものであった。テレビ中継でアナウンサーが絶叫するものの、関係者や選手以外は見る人がいないというのは、オリンピックの興奮を引き下げる以外の何物でもなかったのだ。

 ところが、である。観客のいない中でもテンションを上げるしかなかった選手たちの間に、小さな幸せをもたらしたものがある。それが、「味の素」の冷凍餃子である。黒胡椒ニンニクを使った肉汁がじわじわっと沁みだして来るジューシーな餃子を食べた選手たちの間で、「サプライズ!」という多くの声が上がったのだ。選手村の金メダルは「味の素」の冷凍餃子だ、との報道が駆け巡った。

 米国、ポルトガル、台湾の選手がSNSでこれを絶賛したところ「イイネ!」が連発されたのである。こんなにうまいものは食べたことがない、という選手たちの声は拡散していった。筆者もその噂を聞いて、味の素の冷凍餃子を食べたところ「う!これは!」としびれまくってしまったのだ。そこらの町中華の店で食べるよりは、はるかに旨かったからである。

 さて、味の素は明治42年(1909年)創業の老舗カンパニーである。115年の歳月を刻み、現在の売り上げは1兆4392億円(24年3月期)、世界で3万4615人(23年3月末時点)が働いている。

 その始まりは池田菊苗という江戸時代生まれの博士が、ひたすらに昆布の出汁を研究し、L-グルタミン酸ナトリウムという画期的な調味料「味の素」を発明したことにある。甘味、酸味、苦味、塩味につぐ第五の味である「うま味」を発明してしまったのである。日本の十大発明の一つと言われる「味の素」は、どんな家庭にも置かれる調味料として普及し今日に至っている。

 1986年に「味の素」が作ったキャッチコピー「生活のごちそうはきっと笑顔だ」は秀逸であり、筆者はうまいことをいうものだと感心していたのだ。同社はこの「味の素」を中心に「クノール」「Cook Do」「ごはんがススムくん」などを世に出し、人々を驚嘆させていく。

ABFはパッケージ基板向け材料としてデファクトスタンダード
ABFはパッケージ基板向け材料として
デファクトスタンダード
 そしてまた今日にあって、半導体という最先端技術の分野においても「味の素」は大活躍しているのである。ABF(味の素ビルドアップフィルム)という製品を開発したが、これは電気を通す配線の薄い絶縁材の層であり、世界シェア90%以上を占めるダントツの存在となっている。ほとんどのノートPCやデーターセンターで使われている半導体を搭載する基板(サブストレート)にABFと呼ばれる部材が入っているのだ。

 L-グルタミン酸ナトリムという画期的な調味料を開発した「味の素」は、食の世界から半導体までをカバーするとんでもない100年企業である。これぞ、ニッポンの金メダルともいえるだろう。(企業100年計画ニュースより転載)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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