一般社団法人日本電子回路工業会(JPCA)が主催する電子機器トータルソリューション展2024は、まさに活気にあふれていたのである。思えば、新型コロナウイルスの感染拡大などにより著しくトーンダウンしていた各種展示会は、すさまじいまでの勢いで復活を遂げつつある。筆者も会場を視察したが、そこら中から多くの知り合いに声を掛けられ、立ち話の連続であった。
「今回のJPCA Showはブースの数だけで1227コマを数えている。動員見込みは5万人以上である。170を超えるセミナーも実行される。2日目には、齋藤健経産大臣も会場視察に来られるのだ」
こう語るのは、開幕式の挨拶に立ったJPCAの小林俊文会長である。小林氏によれば、相も変わらず国際政治の不安定は続いており、ウクライナであり、ガザであり、とにかく安定しない。国内においては円安の加速が止まらないことを指摘したうえで、半導体の反転攻勢が始まったと強く示唆したのだ。そしてこれを支えるパッケージ、マザーボードなど、まさにプリント基板およびその周辺技術の出番が来たのだと強調していた。
ちなみに、国内のプリント基板メーカーの23年度売上高はNOKがトップであり3598億円、前年トップに立った京セラが2位で3146億円。3番手はイビデン、4番手はメイコー、5番手は新光電気工業と続いている。24年度は下期から回復基調に向かう見通しであり、各社とも大型の先行投資を敢行する見込みであるという。
さて、基調講演の中で出色であったのが、村田製作所の専務取締役である岩坪浩氏のスピーチである。同社は、よく知られているように積層セラミックコンデンサーの世界最大手であり、最近ではなんと半導体分野をビシバシと強化しているのである。
「村田製作所は今年創業80周年を迎えるが、将来の発展に向けてさまざまな取り組みを進めている。自前主義を長く貫いてきたが、2012年にはVTIのMEMSセンサー、ルネサスのパワーアンプの事業をM&Aで手に入れた。2014年にはRFモジュール、2016年にはシリコンキャパシタ、2021年にはRFICの会社を買収した」
JPCAShowの基調講演でスピーチする
村田製作所の岩坪専務
筆者はこの岩坪専務の話を聞いていて、これはとんでもない方向に向かっているとの思いを強くしたのだ。なんのことはない、電子部品の世界最大手の一角である村田製作所が半導体分野にはっきりと踏み込んできたからである。
そしてまた、ヘルスケア分野への取り組みにも驚かされた。「疲労ストレス計」を開発し、なんと200社に供給しているという。人間は体が疲れたことは自覚できるが、精神が疲れたことはなかなか数値化できない。ところが、村田は精神の疲労度まで見える化したのだ。これはサプライズ以外の何物でもない。
そしてまた、最近ではスタートアップ企業とビジネスを一緒に考えるという作戦を展開している。いいアイデアは持っているが、高性能部品の活用がうまく分からないという人たちと協業しようというのだ。もちろん、村田製作所の得意とする部品を小ロットからでも購入可能という条件で、いわばビジネスパートナーとしてベンチャーを育成しようというのである。
「素晴らしい概念、画期的な提案を持っている人は数多い。しかして、ハードウエアはどうでもよく、何でもソフトウエアでやれると思っている人も多い。これは明らかな間違いなのである。未来の素晴らしい製品を作るためには、むしろ画期的なハード、つまりは半導体、電子部品が必須になるのだ。ハードを無視する人は必ず負ける!と明確に言っておきたい」(岩坪専務)
けだし明言であり、筆者は会場の最前列で深く頷いていたのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。