5月18日の土曜日のことである。早朝の羽田空港を後にして、一路熊本に向かった。アミュプラザという大型商業施設の広場で開催されるイベントに参加するためである。筆者に要請されていたのは、まさに「半導体漫談」なのであった。
このイベントとは、世界最大の監査法人であるデロイトトーマツグループが主催する「熊本半導体ビジネス室開所記念」という名目のものであった。このビジネス室長に就任したデロイトトーマツの貴志隆博さんとご一緒にイントロの対談に出演し、例によって落語まがいのスピーチを行った。そこには、三菱電機パワーデバイス製作所、熊本大学など、さまざまなブースがあり、熊本産のおいしいものも食べられるということもあり、思った以上に多くの人たちが来ていた。
とても嬉しかったのは、買い物カゴをさげたご婦人の方々、若いOLの方々、さらには中高年の普段着のおじさんたち、そして子供たちも来ていて、筆者の語る熊本半導体フィーバーについて聞き入ってもらったことである。時々は拍手も、そして笑いのウケもとった。ちなみに、筆者と岸さんとの出演の後には、熊本ゆかりの吉本興業の芸人の皆さんが出演されると聞いて、これまた驚いたものである。
それはともかく、熊本半導体フィーバーといえば、台湾TSMCの第1工場、第2工場の大型設備投資が喧伝されているが、忘れてもらってはいけないのは、ソニー半導体の拠点であるソニーセミコンダクタマニュファクチャリングのヘッドクォーター(本社)が熊本に置かれていることだ。菊陽町にあるこの量産拠点は、2001年秋に完成稼働したものであるが、もちろん同社の得意とする300mmウエハーによるCMOSイメージセンサーを量産することが目的であった。
このソニーが新たな拠点として、現在の菊陽町の本社工場の近くにある西合志に37万m²という巨大な新工場用地を構えたのである。現在の熊本工場は敷地20万m²で満杯であり、次の量産拠点としての備えをする必要があったのだ。最近の傾向としては大型工場を一気に建設し、需要の変動に合わせて設備を入れていくことが多い。西合志新工場については、スマホなどモバイル向けのCMOSイメージセンサーの量産強化とアナウンスされている。
CMOSイメージセンサーのワールドワイドにおけるソニーの金額シェアは50%を超えており、競合するサムスン電子、オムニビジョン、オンセミなどに大差をつけている。先に稼働した長崎県諫早のファブ5においてもモバイル向けセンサーの生産能力は一気に拡大し、これに加えて西合志の巨大工場が稼働してくれば、ソニー全体の半導体の生産は一気に押し上げられることになるだろう。
ソニーとしては、25年に「CMOSイメージセンサーの金額シェア60%」の達成を目標に掲げているが、さらにもっと上ぶれするかもしれない。そしてまた、現在における国内の半導体チャンピオンの座はソニーであり、1兆6000億円の金額となっている。ルネサスやキオクシアを押さえて、ソニーはニッポン半導体の先頭に立っており、これからも熊本をはじめとする量産設備投資が国内外の注目を集めることになるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。