SMICは一部規制対象も系列のUNT紹興などは積極投資を継続
中国政府は、これまでに16兆円の巨額を半導体産業立ち上げのために投入してきた。このために、直近の世界シェアでは日本の8%を抜いて9%にまで上昇している。ただこれは、少しく膨らました数字であろう。サムスンをはじめとする外資系メーカーが中国に立地している分の生産金額も含めて計算している可能性がある。中国半導体メーカー自体のシェアだけでいえば、せいぜい4~5%というところであろう。
さて、中国最大の半導体基金が先ごろスタートした。米国が半導体セクターにおける中国の躍進を阻止しようとする状況の中で、国産半導体の製造を強化する取り組みを国内外に示した形となる。今回の「国家集成電路産業投資基金」は中央政府がかなり出資するが、さまざまな国有企業からも集めまくり、3440億元(日本円では7兆4500億円)を投入するのだ。
中国の半導体戦略はここにきて、急速に変化している。最先端の半導体製造装置、半導体材料、さらには各種部品、センサーなどの輸入を米国が主導するNATO全体で止められているために、どうにもこうにも最先端品は作れない。これがゆえに、28nm~100nm程度の微細加工プロセスによるミドルレンジ、ローエンドの半導体に特化した戦略を取り始めたのだ。具体的には、パワー半導体、CMOSイメージセンサー、アナログ半導体、各種マイコンなどの量産を徹底強化し、新たなベンチャー企業も次々と起こしていく考えだ。
そして、ミドルレンジおよびローエンドの半導体というエリアにおいて世界シェア70%以上を取るという戦略を取り始めたとも言われている。こうしたことを背景に、今回の巨大な半導体基金はスタートするのだ。
筆頭株主は中国財政省であり、深セン、北京、広東などの地方政府が所有する投資会社が出資している。そして、直接的な投資ターゲットとしてはやはりファーウェイであろう。同社は長年にわたり、米国の制裁を受けているために15兆円もあった売上げが11兆円程度まで下がっている。ここにきて少し盛り返してはいるが、いかんせん大きな打撃を被っている。
ちなみに、ファーウェイが日本企業から購入している金額は1兆円以上となっており、とても大切なお客様なのだ。そしてまた、ローエンドミドルレンジの半導体製造装置の分野にあっては日本の企業はめっぽう強いわけであり、今回の基金の報告を聞いて小躍りする日本の装置メーカーがいっぱいいても、まったくおかしくはないと筆者は思っている。
もちろん、中国の国産半導体メーカーの代表格であるSMICなどにもこの資金は投入されるために同社の株価は一時8%を超えている。またここにきて、台湾のTSMCやオランダのASMLはもし仮に中国が台湾に侵攻してきたならば、半導体製造装置を無力化する手段があると言い始めた。遠隔操作で強制的にシャットオフすることが可能だと言っているのだ。こうしたきな臭い情報が流れてくる中で、中国は決してひるむことなく半導体にひたすら突き進んでいる。それはそうだ、半導体はいまや世界の国家安全保障の要ともいうべき存在だからなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。