EV、プラグ・イン・ハイブリッド車、燃料電池車、水素エネルギーエンジン車など、次世代エコカーに向けての動きが加速している。そしてまた自動車向け半導体は現在の主要アプリの中で、AIと並んで伸びる分野であることも認識が進んできた。
いつも指摘することではあるが、現在のメーンのガソリンエンジン車の世界では、1台の車(平均的中級車)に積まれる半導体はせいぜいが、5万~7万円といったところだ。ところが、これがEVなどのエコカーになれば1台につき10万~15万円に跳ね上がる。自動車走行運転になれば、多分1台につき20万円以上、AIとつながるコネクテッドカーになれば、1台につき30万円以上になっていくだろう。
こうした状況を反映して、ほんの数年前であれば、自動車向け半導体はワールドワイドの半導体のうち3~5%くらいに過ぎない小さなマーケットであった。しかして、今日にあっては全半導体の10%程度を自動車向けが占めており、ここ数年の内には15%以上となっていくことが確実視され始めた。金額で言えば、自動車向け半導体は20兆円以上という将来性が期待されている。
そこで、まずは自動車産業で世界トップを行く日本が動いた。2023年12月に自動車メーカーを中心に「自動車用先端SoC技術研究組合」(略称ASRA)が設立されたのだ。
チップレットを活用した自動車用先端SoCの
研究改発を進めるASRAも設立
自動車、電装部品、半導体関連の12社(SUBARU、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研、マツダ、デンソー、パナソニック オートモーティブシステムズ、ソシオネクスト、日本ケイデンス・デザインシステムズ、日本シノプシス、ミライズテクノロジーズ、ルネサスエレクトロニクス)が結集した。2028年にはチップレット技術を確立し、2030年以降には自動車用SoCを量産車に搭載を目指すという。このASRAに参加するカンパニーはこれからも増えていくだろう。
ルネサスはインド向け売上高を全体の1割強に引き上げる方向性を示した。5%未満であった22年時点から2倍にする。経済成長が進むインドの自動車、産業機器やIT企業に向け、得意とするマイコンなどのロジック半導体を売り込むのだ。インドでの人材獲得にも注力し、ハードだけではなくソフトウェア分野も強化する。
一方中国政府は国内の自動車大手に対し、25年に調達する半導体の最大25%を現地製にするように求めた。政府はガソリン車からEVへのシフトをてこに「自動車強国」を目指すと言っているが、車載半導体の現地調達率は10%にとどまっている。中国製半導体の採用を促し、独自の半導体サプライチェーンの強化を急ぐという。
しかしてEV車の世界的普及は、思ったほどには全然進んでいない。中国においても、余ったEV車が風にさらされ、そこら中に並んでいるという情報も入っている。イーロン・マスク率いるテスラも、ここに来て業績は一気にトーンダウンしているのだ。この情勢を考えれば、中国政府のいう自動車向け半導体の内製化25%は、例によってのぶち上げキャンペーンと見る向きも多い。
そしてまた、次世代の自動車半導体という世界では、とりわけ自動車走行、AI化などに強いエヌビディアが圧勝するという見方が強い。インテル系のモービルアイも大活躍するだろう。AMDにもチャンスがあると言われている。自動車向けパワーデバイスということになれば、ドイツのインフィニオンが圧倒的に強く、オンセミ、STマイクロなどが大きな地盤を持っている。
何の事はないのだ。自動車向け半導体は所詮、欧米勢が世界をリードしていく図式はあまり変わっていないのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。