(株)タカトリ(奈良県橿原市)は、高精度な切断加工技術を活かしたSiCウエハー加工装置を展開している。2023年10月にはワイヤーソーの新機種と研削機をリリースした。新製品と今後の開発について代表取締役社長の増田誠氏に話を伺った。
―― SiCワイヤーソーの最新機種について。
増田 6インチ対応の前機種の機能に加え、大口径化、省人化に対応する。大口径化については、8インチのウエハー加工に加え、8インチ用インゴットの種加工用途として10インチの切断にも対応できる。
―― 省人化の機能については。
増田 大口径化が進むにつれて、より大きく重くなるリールやワイヤーの交換作業を自動化した。製造装置通信システムにより、加工物・ワークローラー・ワイヤーリールの交換をロボットが自動で行う。作業員の負担を軽減し、また安全性も高めた。工場内のレイアウトにも工夫を施すため、工場内の合理化にも貢献できる。
―― 出荷状況はいかがでしょうか。
増田 6インチ対応の前機種はすでに約400台を出荷した。現在の出荷比率は、6インチ向けが8割、8インチ向けが2割ほどとなっている。しかし今後1~2年で、5割ずつほどまで8インチ向けが拡大する見込みだ。
23年からインゴットの供給不足などにより需要は踊り場となっている。しかし24年秋~24年末にかけて回復を見込んでいる。そのため24年9月期の業績予想は、前期(売上高164億円)比で横ばいを計画している。
―― 生産については。
増田 現在は22年などに得ていた先行受注への対応や製品の完成度を高めることに注力している。部材不足も解消され、顧客の希望に合わせた納品が可能となっている。生産能力は十分であるため、当面は提携先の工場などを活用する。
―― 今後の開発についてはいかがでしょうか。
増田 ウエハーの量産には今後さらなるコストダウンが求められると予想している。切断時にでる切りくずを最小限に抑えることで、コストダウンに貢献していきたい。そのため、現在は直径100μmのワイヤーを使用しているが、さらに細い80μmのワイヤーへの対応を進めている。
また、新工法の開発にも着手した。さらに細いワイヤーと新工法を用いて切断することで、切りくずの削減に加え、生産性、切断面の精度向上により歩留まり向上に貢献できる。26年内の製品化を目指している。
―― SiC以外の材料についてはいかがでしょうか。
増田 現在はGaNウエハー切断加工や研削に対応した装置の開発を進めている。当社はノーベル賞受賞者の中村修二教授と共同でGaNの加工技術を12年に開発した。当時は量産化には至らなかった。しかし今回、GaNの市場獲得も目指して、SiCモデルにさらなる改良を加えたモデルをリリースする計画である。
―― 新たな研削機も発売されました。
増田 米国の大手ウエハーメーカーと共同開発した。中国を中心に展開を進めていく。すでに受注も多くいただいている。販売価格は1台約1億円で、70期にあたる27年9月期までに200台の販売を目指している。
―― 特徴を教えて下さい。
増田 SiCの研削に耐えられる装置の強度が特徴だ。スピンドリルを組み込んだユニットに鋳物を使用し、高い剛性を実現した。
また、ウエハーの厚み測定、洗浄、研削、仕上げ、カセットへの収納といったすべての工程に加え、研削に使用する砥石の交換までを自動化した。砥石の摩耗を計測し、データを収集、予測してロボットが砥石を自動で交換する。また、ウエハーの研削前に砥石の表面を均一にするドレスボードの供給も自動で行う。作業員による手作業をなくすことで、作業時の不備やウエハー損傷のリスク、装置の故障などを低減し、人件費の削減や歩留まり向上に貢献する。
―― ワイヤーソー以外の新たな取り組みがあれば教えて下さい。
増田 ウエアラブル製品生産用装置の開発を進めている。既存の独自技術を活かした新技術で、スマートフォンに代わる次世代の情報ツールの領域にも参入できる。
(聞き手・日下千穂記者)
本紙2024年5月23日号8面 掲載