電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第579回

世界の半導体設備投資はいまやTSMCを中心に動いている!


世界全体のほぼ1/4の巨大投資を断行、米アリゾナ、日本熊本には超大型工場

2024/5/17

 2024年の半導体設備投資は前年比横ばいの1460億ドル(約22兆円)となる見通しだという。これは筆者が所属する産業タイムズ社が発刊する電子デバイス産業新聞の稲葉編集長が2月22日付のトップ記事で書いていることである。しかして、横ばいとはいえ、絶対額としては過去ピークの2022年の1615億ドルに迫る水準なのである。


 最近では台湾のシリコンファンドリー最大手であるTSMCの投資は突出しているというほかはない。いまや、世界の半導体設備投資の1/4以上はTSMC1社で担っている状態であるからして、まさにサプライズなのだ。

 「TSMCが何ゆえにこれだけ投資できるかといえば、圧倒的に使う経費が少ないからである。シリコンファンドリーは通常の半導体メーカーのように支店や営業拠点などへの人的投資や設備の投資がほとんど必要ない。これは実に大きいことだ。そしてまた、研究開発にしてもある程度はやってはいるものの各社から最先端のスパイスモデルが提供されるのであるからして、基礎的な研究などは必要ない。さらに言えば、かなり高額で受注するケースが多いため、利益率はバツグンにいいわけであり、投資余力を最も持っている半導体企業といえるのだ」

 これは筆者が長年にわたって親しくする著名なアナリストのコメントである。彼が指摘するように、TSMCの営業状態は相変わらず好調だ。2024年1~3月期の純利益は1兆67億円となり、前年比9%増、純利益率は実に38%というすさまじさである。増収増益のレベルは過去最高となっている。もちろん、一番引っ張っているのは生成AI向け先端半導体であり、アップル、エヌビディアなど米国の顧客が70%も集中している。

 TSMCはノーブランド企業であり、生産委託がメーンであるから企業別のランキングには登場しない。ただ、生産金額はすでに10兆円を超えているわけだから、事実上はインテルやサムスンを押さえて、半導体の世界チャンピオンだといってもよいだろう。それだけの売り上げがあれば、もちろん設備投資も積極的にできる。TSMC幹部は、ここ数年間については最低でも5兆~6兆円の設備投資は断行していくことを示唆しており、こうなれば世界半導体設備投資全体の主力をTSMCが担うことになるだろう。

 TSMCが海外に展開する巨大工場はなんといっても米国アリゾナ工場が筆頭格であろう。第1期と第2期を合わせて5.5兆円の新工場を立ち上げており、まだ内定段階ではあるが、さらに4兆円以上を投じる第3工場の建設も考えられているのだ。TSMCの米国新工場は第1から第3まで含めて10兆円が投入されるわけであり、米国政府は当面TSMCに対して1兆7400億円の補助金を投入するという。第3工場については、次世代の2nmの最先端プロセス技術を導入すると言われており、台湾の最先端工場とほぼ肩を並べる工場を米国に作ることになるのだ。

 一方、日本の熊本には第1工場(1.2兆円投入)が先ごろ立ち上がり、第2工場(2兆円投入)の建設計画も発表され、早ければ年内にも本格着工する構えだ。第3工場も検討されており、熊本が第一候補ではあるが、第二候補として福岡や大阪の名前も挙がっているようだ。さらに言えば、TSMCは日本に半導体の先端パッケージ工場を新設するという動きもあるのだ。

 そして、TSMCは欧州のドイツ・ドレスデンに1.5兆円を投入する新工場立ち上げも計画しており、その他の地域でも多数の工場を作る構想があるといわれている。この裏には中国が台湾に侵攻してくるという可能性を考えての地政学的なリスクヘッジもあるかもしれないが、世界半導体はついにシリコンファンドリーの時代に入ったということを象徴する出来事であるといえよう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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