2021年に創業150周年を迎えた独コンチネンタルは今、オートモーティブ、タイヤ、コンチテックの3セクターで事業展開し、23年売上高414億ユーロ、従業員数約20万人、世界57カ国519拠点を誇る大手ティア1メーカーへと変貌を遂げている。激動の自動車業界のなか、今後に向けて同社はどんな展望を見据えているのだろうか。
日本法人、コンチネンタル・オートモーティブ(株)(横浜市神奈川区)では、1月から代表取締役社長に難波祐一郎氏が就任している。難波氏は某ティア1メーカーにおいて日系OEM営業統括などで実績を積んだ後、12年にコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンへ入社。営業統括部長として活躍し、21年からWBS(ホイール・ブレーキ・ソリューションズ)事業部の日本・韓国事業統括兼バイスプレジデントを務めていた経歴を持つ。
―― 日本法人の新社長として描くビジョンは。
難波 当社日本法人は設立から二十数年が経ち、従業員数約1500人。この本社内に集結する研究開発部隊の力量、各種試験・評価設備やテストコースの充実など、十分な実力を備えてきた。さらなる成長に向けて、ドイツ本社に頼るのではなく、気持ち的に独立して自分たちが引っ張っていける組織を形成していきたい。日本で完結する領域が増せば、お客様によりタイムリーな対応や、日系ティア1サプライヤーと遜色ないサービス提供も可能になると考える。
―― 自動車業界は変革期の渦中にあります。
難波 100年に一度の変革期に惑わされることなく、既存のハードウエアビジネスは継続的にしっかりサポートしていく姿勢に変わりはない。一方で、自動車の自動化や電動化が進み、SDV、AI活用やコネクテッドカーなど大きな波が押し寄せていることも確かだ。コンチネンタルは世界のエンジニアリソースを早くからソフトウエアに振り向け、ソフトウエアアカデミーを社内に設けてトレーニングを強化するなど先手を打ってきており、準備はできている。車載ソフトウエアでエレクトロビットをグループ傘下においていることもその証左だ。総合的な製品力や従業員のマスも強みになる。
―― オートモーティブグループからユーザーエクスペリエンス(UX)事業を、コンチテックグループから自動車部門(OESL)を独立化させる方向性との発表がありました。
難波 まずコンチテックグループは今後、インダストリービジネスによりフォーカスしていく方針であるため、25年にOESLの完全独立を見据えている。一方、UX事業は事業部門とコンチネンタルの双方にとって一番有益なかたちを模索していくことになるだろう。UX事業は革新的製品ポートフォリオでお客様からの受注状況も好調であるが、ハードウエアビジネスであること、モビリティーのかたちが進化する過程において、SDV周りで当社が果たす役割についての熟考を要する。
―― オートモーティブグループでの開発拠点集約についても公表されました。
難波 当社の長い歴史のなかで、数々の買収を重ねてきた。このため現状、世界82カ所に大中小さまざまな研究開発拠点が散在している。効率よく効果的に機能するために再編成を行う必要があるという判断に至った。効率、収益面の向上につながる。
―― 日本法人への影響は。
難波 すでに発表されている欧州などと比較すると小さいといえるだろう。様々な分野で効率と効果の双方が向上することを目指す。日本、中国、アセアン、韓国、インドは全社のなかで次の成長軸として期待されており、当社が持つ最新技術で貢献していきたい。例えば今後、アーキテクチャーが変わり、車両内の何百個というECUを統合していく必要がある。こうしたケースにも、当社が19年にフォルクスワーゲンの「ID.3」でボディー系HPCを共同開発し、各社のソフトウエアを連動するプラットフォームの開発を成し遂げた経験が活きる。また車両とスマホの連携も難易度が高いが、ここでも世界の自動車メーカー向け開発で培った知見で貢献できるだろう。
―― 日本にも生産拠点があります。
難波 浜松市に電子制御ブレーキシステムを製造する浜北工場がある。ほぼ自動化された電子制御ブレーキシステムのアセンブリーに加え、当社グループでも世界4工場でのみ製造可能な、高度な精密加工技術を要する精密バルブも量産できる重要拠点だ。自動車の電動化などに伴い、ブレーキバイワイヤー(BBW)の流れにあり、当社海外工場では複数部品を統合した進化系BBWユニット「MK C1」も生産されている。浜北工場が今後も重要拠点であり続けるためにも、浜北でも次世代BBWユニットの生産を担えるよう、当社内で前向きに検討したい。
―― 今後の展望を。
難波 車両のアーキテクチャーを描ける会社が未来にも生き続けられると考える。そのためにはパートナーとの協業が必要で、互いの強みを活かしながら事業を進めるフレキシビリティーが重要だ。その一例は最近発表したSynopsysとの協業で、開発環境シミュレーション能力を高め、開発の効率化に貢献する。
加えて、各自動車メーカーの個性をさらに活かすソリューションを創出していく総合サプライヤーとしての手腕を磨き続けていきたい。そして前述のとおり、日本法人として完結する領域を増やし、より丁寧な対応でプレゼンスをさらに高めていきたい。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年5月17日号2面 掲載