電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第119回

なんだかんだいっても2014年の世界半導体は9.4%も伸びたのだ


~史上最高の3532億ドルを記録、世界ランク入りは東芝だけ~

2015/1/30

 2014年という年は、必ずしも世界経済にとって良い年ではなかった。中国のGDP成長率は7.4%と24年ぶりの低水準に減速した。ロシアは原油急下落でのたうちまわり、ブラジル経済も成長が止まった。インドはひたすら子供を産み続けており、ここ1~2年で中国を抜いて世界最大人口になるが、やはりGDPの成長率は下がっている。

 こうした新興国のトーンダウンで世界経済全体はあまり良くない、という状勢下であるにもかかわらず、2014年の世界半導体のトータル売り上げは思いのほかに伸びた。すなわち前年比9.4%増となり、トータル金額は3532億ドルに押し上げた。言うまでもなく、これは史上最高金額となるものだ。

 筆者は常々半導体の爆発的成長は止まった、としており、知人からは「そんなことねえじゃないか、お前はうそつきだ」と飲んでいる場で冷たく言われてしまった。しかして、筆者の主張は変わらない。今起きていることは、スマホ最終戦争に向けての各社の攻勢が続いているためであり、ITハード産業そのものがある種の限界に来ている、との見方に変わりはない。

 2015年の半導体市場の予想については、かなり見解は分かれている。「少なくとも4~5%は確実に伸びる」「もしかしたらほぼ横ばいの0%成長」「14年より加速して2桁成長も狙える」など様々だ。筆者については今のところ2~3%増で見ている。確かにスマートフォン(スマホ)の勢いはいまだに止まらない。2014年はおそらく13億台は出荷しただろう。2015年は、成長率は下がるものの16億台以上はほぼ確実だろう。しかしながら、23億台前後で踊り場状況がくる、という見方は実のところ世界中の多くのアナリストが指摘しているところであり、筆者も同じ考えだ。

 確かに半導体業界が期待する自動車向け半導体の急上昇は考えられる。車載用機器(ECU)の需要額は、2020年段階で対12年比65%成長し、30兆円の巨大市場が現出することはほぼ間違いないだろう。車載用半導体市場は、20年段階で5兆~6兆円の市場になるだろう。それでも、かつての半導体市場の爆発的成長を支えたパソコン、液晶テレビ、ケータイ、スマホの勢いにはとても勝てない。

 医療産業向け半導体も中長期的にはかなりの伸びを示すだろうが、出荷台数そのものが少ないことが気にかかる。そしてまた、かなり大騒ぎされているウエアラブル端末も半導体を多く使うという点では物足りない。やはりM2Mに代表されるIoTの新時代が到来しない限り、再びの半導体の爆発的な伸びは難しいのではないか。

 もっとも、前兆は出ている。例えば、インテルは主力とするPC向けCPUが減速しているにもかかわらず、データセンター向けのサーバー需要が大きく伸びた。また、イメージセンサーで世界トップを行くソニーの生産額も急増しており、ここ2~3年のうちには世界ランキングベスト10入りしてくる可能性は強い。車載向けセンサーも投入し、スマホを中心とする端末の拡大、さらにはオリンパスと組んでの医療事業が期待できるからである。それにしても、「もうDRAMの時代は終わった」といわれてきたのに、SKハイニックスやマイクロンなどは13年に引き続き非常に高い成長を示した。IoTの時代の到来が近づいており、フラッシュメモリーを含めてメモリー需要はどこまでいっても拡大するのかも、との見通しが強くなってきた。

 2014年の世界半導体ランキング(IHS調べ)を眺めていて気がつくことは、台湾のメディアテックの伸び率が57.5%と突出していることであり、クアルコムに続いてファブレスベンチャーの時代が来たのだなとつくづく考えてしまう。メディアテックを爆発的に成長させた要因はシャオミーをはじめとする中国スマホメーカーであり、成長率が衰えてもGDP全体で1200兆円という、中国という国家の巨大化がやはり物を言っている。日本のGDPは今や約500兆円であり、ますます中国の背中は遠くなってきた、ともいえよう。


 やっぱり人口が多い国は強いのね、と思いながらもう一度ランキング表を見ていたら、日本メーカーで上位に入っているのは東芝(7位)1社だけであることに気がつき、「頑張れ!ニッポン」と思わずため息交じりのツブヤキシロウとなってしまった。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索