2023年3月、阿蘇くまもと空港の新旅客ターミナルビルが開業した。三井不動産(株)などのコンソーシアムが整備・運営を担当し、デパ地下ゾーン、フードコート、土産店などの商業エリアが1ゾーンとして集積し、“商業施設感”の強さは目を見張るものがある。しかも商業エリアは搭乗ゲートの目の前にあり、搭乗直前まで楽しめる。新ターミナルビルについて、熊本国際空港(株)代表取締役社長の山川秀明氏に話を聞いた。
―― 搭乗ゲートと商業エリアの近さに驚きました。
山川 搭乗ゲートとフードコートの席は数mしか離れておらず、フードコートの周辺にもデパ地下ゾーンや、お土産店が並ぶエリアなどが広がっている。一般的に飛行機に乗る際、少し早めに来てベンチなどで搭乗開始を待つが、ここなら早めに来ても時間を持て余すことなく、直前まで熊本の食などを楽しめる。
―― 店舗の配置も他の空港とは少し違います。
山川 阿蘇くまもと空港は時間をなるべく気にせず、直前まで熊本を楽しめるように保安検査後エリアに大半の店舗を配置している。また、大型空港では様々な個所に店舗が点在しているが、熊本空港はコンパクトな空港ということもあり、商業ゾーンを集約し、その中にはモールのように両サイドに店舗を配置したエリアもある。一般的に空港では1つのお土産店でいくつか商品を買って終わりだが、熊本空港は多くの店舗を集積したため買い回りが生まれているのも特徴だ。早めに保安検査場を抜けていただく方が多く、売り上げにもつながっている。
―― 店舗は熊本を前面に押し出しています。
山川 フードコートには「馬肉料理 菅乃屋」「味千×桂花ラーメン」などのほか、カウンター寿司として天草の人気店「鮨 福伸」、独立した区画に熊本市街地にあるコーヒー店「珈琲回廊」などを誘致した。デパ地下ゾーンは「お酒の美術館」にイートイン席を設け、「おだ商店」が提供する揚げたての辛子蓮根を持ち込むなど最後まで熊本の食を楽しめる。
熊本のお酒を試飲できるお土産店などもあるほか、熊本や九州の逸品などを発信するショールーム「QSHU HUB」もある。ラウンジも評価が高く、空港近くにあるサントリーの工場で作られたビールや、熊本の焼酎を飲むことができる。店舗だけでなく建物の構造材に熊本産木材を使ったり、熊本城を意識した白と黒の意匠を各所に施したり、施設全体で熊本を強く押し出している。
―― 施設全体のコンセプトは。
山川 「世界でいちばん居心地のいい空港」を目指して整備・運営している。一連の店舗配置などは一からターミナルビルを整備できたことが大きい。ここまで説明したのは国内線の保安検査後エリアについてだが、国際線の旅客もこのエリアに入れる導線にしており、これも一から整備したことで実現できた。
―― 2期施設が間もなく開業します。
山川 現在運営しているのは1期施設の旅客ターミナルビルで、今年秋には2期エリアの開業を迎えフルオープンとなる。これまで保安検査前エリアの店舗が限られており、新たにお見送りやお迎えに来た方向けの店舗を含んでいる。旅客だけでなく地元の方も利用するため、「ロイヤルホスト」や、東京でも人気の「格之進ハンバーグ」などを誘致した。広場やビジターセンターとしてレンタカーの拠点や教育施設なども設ける。
―― 阿蘇くまもと空港の将来像は。
山川 23年度の旅客数は320万人超で着地した。国際線は現在、台湾・香港・韓国便で計3路線が就航しているが、TSMCの工場整備の効果もあってか台北便の利用者が特に増えている。23年度、国際線の旅客数は約20万人で、これは熊本空港として過去最高だった。コンセッションとしての提案では、運営最終年度となる51年度の旅客者を622万人とする目標で、320万人から大幅に増やすカギとなるのが国際線だろう。このため国際線のカウンターなどがあるエリアでの将来的な増築を想定しつつ、新ターミナルビルを開発した。また、空港周辺はホテルが足りず、順調に旅客が増えればさらに足りなくなる。コンセッションにおける我々のマスタープランでは、将来的にホテルの整備も予定している。
―― まだまだ伸びしろがありそうです。
山川 熊本は食や自然が本当に豊かで、福岡や鹿児島など九州各地へのアクセスが良く、九州の拠点となりうる立地。半導体などの工場も多く、産業も発展しそうだ。今後はJR熊本駅と空港を結ぶ鉄道も検討されており、空港のアクセスも改善する。今後も阿蘇くまもと空港は発展していくと思う。
(聞き手・編集長 高橋直也)
商業施設新聞2544号(2024年5月7日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.432