TOPPAN(株)がFCBGA事業で攻勢をかけている。これまでの収益重視のスタイルから、積極的な生産能力の増強を通じて事業規模の拡大にも意欲を見せており、国内外で新工場建設にも乗り出している。FCBGAをはじめとする半導体事業を統括する古屋明彦執行役員に現況と今後の事業見通しを伺った。
―― まず、足元の状況から教えて下さい。
古屋 2023年(暦年)の半導体パッケージ基板市場全体は大手顧客の需要減などもあり、前年比で2~3割のマイナス成長になったとみているが、当社の23年度(24年3月期)のFCBGA事業は3割以上のプラス成長を記録できた。顧客からの需要増に伴って、主力拠点の新潟工場(新発田市)での増産投資が寄与したことが大きかった。
―― 市場全体のマイナス成長に対して、貴社がプラス成長できた理由は。
古屋 サーバーや通信インフラを中心に、需要が伸びている領域を中心に事業を展開できていることが大きい。我々のFCBGA事業はデータセンター(DC)周辺と呼んでいるサーバー用CPU、スイッチ、AIアクセラレーター分野でおよそ7割が占められており、残る3割がGPU関連、割合はまだ少ないが一部車載分野もある。
―― 他の同業他社に比べ、事業領域や顧客構成が非常にユニークです。
古屋 振り返ると、FCBGA分野の参入は02年で最後発の部類に入る。以前は薄型テレビやゲーム、カーナビ向けにFCBGAを展開してきたが、季節性や需要変動の波が大きく、このままでは償却負担が重く、しっかりとした利益を生み出せない。こうした課題に対して、規模はそれほど大きくないが、高速伝送特性などの強みを活かせる分野での事業展開に注力するようになった。具体的には基地局などの通信インフラ分野だ。
―― 従来の収益重視のスタイルから近年は変化を感じます。
古屋 我々が当初ニッチ分野と設定していた領域は数量がそれほど大きくなく、当社の事業規模にマッチしていたが、本来ニッチであった分野の需要が急速に拡大している。我々としても、こうした急激な需要増に対応すべく、生産能力を増強していく必要があり、足元での積極的な動きに発展している。
―― 新潟工場の増産投資の進捗は。
古屋 21年から追加設備の導入を進めており、この投資が23年度から大きく寄与している。25~26年度に向けて遊休スペースを活用することで、さらなるキャパシティーの増強を検討していく。新潟工場に次ぐ投資として現在進めているのがシンガポール新工場だ。
―― シンガポール新工場のスケジュールは。
古屋 以前から海外に拠点を設ける構想は持っており、進出地に関しては東南アジアなどを中心に検討を進めてきた。シンガポールは人件費などコストの観点も指摘されることもあるが、かなりの部分で自動化を進める予定で、その点は問題ないと考えている。新工場はシンガポール西部のジュロンレイク地区に建設し、延べ床面積は9.5万m²、新潟工場同様に、大型FCBGA基板を生産する。工場開設に合わせて現地法人も設立した。26年末の稼働開始を予定しており、シンガポール工場の稼働により、FCBGA基板の生産能力は27年度までに22年度比で2.5倍以上となる見込みだ。
―― 石川県にも新拠点を構える予定です。
古屋 有機ELディスプレーを手がける(株)JOLEDの能美事業所(石川県能美市)の土地・建物を購入した。稼働は27年以降を予定する。能美は次世代半導体パッケージ基板の量産拠点としての役割を担うなど、中長期を見据えた開発にも力を入れている。24年に、埼玉県杉戸町にある総合研究所内に次世代半導体パッケージ開発センターを設立し、有機RDLインタポーザーをはじめとする次世代開発にも力を入れている。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳/特別編集委員 野村和広)
本紙2024年5月9日号5面 掲載