電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第576回

台湾TSMCは日本国内に5つの工場建設を計画・検討


政府は熊本第1・第2工場に最大1兆2080億円の補助を言明した!!

2024/4/19

巨額の補助金が投入されているTSMC熊本工場(JASM)
巨額の補助金が投入されているTSMC熊本工場(JASM)
 台湾TSMCの日本国内への設備投資は拡大するばかりである。岸田首相はTSMCの熊本工場を視察し、第1・第2工場に最大1兆2080億円を補助すると言明したが、これはまさにサプライズ!!なのである。農林水産省の2024年度予算は全て合わせて2兆2686億円であり、経産がらみの財政拡大に財務省が「待った」をかける姿勢も出始めている。

 TSMCは、半導体生産という局面で言えばかけ値なしに、事実上の世界チャンピオンである。23年の世界の半導体ファンドリー市場は16兆4000億円であるが、同社は59%のシェアを握りぶっちぎり、約10兆円の金額に達している。24年のファンドリー市場は18兆4000億円に増加するが、TSMCのシェアはさらに上昇し62%になると見込まれている。

 そのTSMCが日本に舞い下りた先は熊本である。第1工場は先ごろ立ち上がったが、1兆2000億円を投じ、300mmウエハーでフルキャパシティーでは月産5.5万枚の量産ラインとなる見込み。プロセスは22/28nmおよび12/16nm。第2工場は、現工場隣接の32万m²(菊陽町)に建設されることが決定、この敷地面積は実に第1工場の1.5倍となるものだ。第2工場は約2兆円が投資されるとみられており、プロセスは6/7nmおよび40nmが想定されている。

 さらに第3工場の予想もあり、今のところ熊本が最有力候補ではあるが、人材不足も進んでいるために、福岡県下や大阪府下の名前も挙がっている。福岡県は北九州を中心に豊富な用地を持っており、理工系大学生・院生の数は西日本で最大の存在と言われており、人材の手当てもできる。九州大学、九州工業大学、早稲田大学北九州、福岡大学などが福岡県にとっては強力な武器となるのだ。

 また大阪においてはTSMCがデザインセンターを開設、そして大阪大学とTSMCとの間で技術・事業提携の動きも進んでいる。第3工場は3/5nmの最先端プロセスが予想されている。

 第4工場については、まだほとんど決まっていないが、大げさに言えばすべての都道府県に誘致のチャンスがあるとは言えるだろう。そしてTSMCは茨城県つくば市に3DICの研究拠点を設立しており、さらに日本国内には先端パッケージ工場を建設する可能性も出てきている。

 岸田首相はこうした半導体工場の立地が日本全体に大きな波及効果をもたらすとコメントしており、地元経済の成長や賃上げ、雇用の拡大にビッグチャンス!とまで言っている。北海道の国家半導体戦略カンパニーのラピダスにも9200億円の補助金投入を打ち出しており、キオクシア・ウエスタンデジタル連合軍のNAND工場(四日市/岩手北上)にも2430億円の投入を決めている。さらに、同じく次世代DRAMの量産を担う広島のマイクロンに2385億円、東芝・ローム連合軍のパワー半導体の共同生産(宮崎の新工場など)に1294億円投入という積極姿勢を見せている。

 こうしたバラマキとも言うべき、国民の税金を投入しての半導体産業支援に対し、財務省はまさに「いい顔をしていない」のである。ただですら、国家予算は逼迫しているうえに、子供の出産支援、能登半島地震の復興、米国と連動しての軍事予算拡張などお金はいくらあっても足りないのである。

 しかしながら先行する熊本県の半導体工場ラッシュ(TSMCに加えソニーもイメージセンサーの新工場用地27万m²取得)は、地価の上昇、賃金の底上げ、一般消費の活性化などを呼び込んでいる事は確かなのだ。

 そしてまた、TSMCとの試算によれば、熊本第1工場、第2工場から発生する法人税や個人所得税、固定資産税を合わせれば、TSMCが要求する補助金額を2037年までには上回ると主張するのだ。つまりはロングレンジで見れば、日本国は大きく得をするというわけだが、はてさて国民世論をもう少しうまく「半導体産業の重要性」に集めない限り、いうところのバラマキを続けることは難しくなるばかりであろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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