インドと言えばカレーの国である。超暑い国である。とにかく辛いものばかりを食べている国である。しかして日本に伝わったカレーは、まるで似て非なるものであり、和風にアレンジメントされ、海外でもJAPANカレーはここに来て評価されているのだ。ロングセラーズとなっているハウス食品の「バーモントカレー」は何しろカレーにリンゴと蜂蜜を混ぜ合わせてしまうのだから、日本人が大好きな味になっているのである。
それはともかく、半導体という分野でインドの動きが急速になってきた。今や「戦略物資」とまでいわれる半導体技術の世界で、インドと台湾が一気に接近してきたのである。台湾のファンドリー大手であるPSMC(パワーチップ)の技術提供により、タタ・エレクトロニクスが約1.7兆円を投じて、グジャラート州のドレラに月産5万枚の半導体工場を立ち上げることが華々しくアナウンスされた。ちなみにPSMCは、日本の仙台エリアにも1兆円弱を投じて新工場建設を決めている。
またタタグループのタタ・セミコンダクター・アセンブリ・アンド・テストも、アッサム州モリガアンに半導体の後工程新工場を建設することになった。さらに加えて、日本のルネサス エレクトロニクスはタイのスターズ・マイクロエレクトロニクスとともに半導体の後工程工場のインド進出を決めたのである。
米国の半導体大手マイクロンテクノロジーも、約4万5000m²のクリーンルームを持つ大型の前工程工場建設を立ち上げている。ここではBGAパッケージ、メモリーモジュールなども量産するのだ。インド政府は半導体製造装置の世界最大手のアプライド マテリアルズにも進出を促していると言われている。
「インドはこれまでスマホにしろ、半導体にしろ、材料にしろ、ひたすら中国頼みであった。これらの国産化に向かってひた走る姿は、はっきりとNATO陣営の一角であることを示し始めたと言って良いだろう。我がニッポンもインドとの交流をさらに深めていかなければならない」
これは自民党政府の高官が目をかっと見開いて言った言葉である。これまでインドは日本に対して半導体技術の提供、さらに半導体関連の工場進出を呼びかけてきたが、なかなか実を結ばなかったのが現実だ。水、ガスといったインフラの未整備、クリーンでない環境がボトルネックであったと言われている。
そしてまた大型の補助金をインドが用意できないのであれば、行くメリットなしと考えるのも自然なのだ。しかしここに来て潮目が変わった。
2兆円とも3兆円ともいわれる大型の「半導体補助金」をバラまく方針をインド政府が決めた途端に、大きなプロジェクトが次々と発表されている。イスラエルのファンドリー企業であるタワーセミコンダクターも2兆円近い投資計画、つまりはインドへの新工場進出を申請した。
もっとも、これまでにインドにはアップル製品の生産を請け負う鴻海(ホンハイ)精密工業などの台湾企業228社が進出しており、台湾との結びつきはかなりあったのだ。インドのモディ首相は、中国の台湾進出を警戒していると言われ、ますます自国の技術を高めながら、西側諸国寄りの政策をとっていく可能性は強くなったのだ。
「日本は半導体材料で世界シェアの50%以上を持っている。ぜひとも素材系の日本企業が次々とインドに進出するのを期待する。そのために日本国内でのインドセミナー開催、日本企業のインド訪問ツアーなどもしっかりと計画したい」
これはインド大使館筋からの情報であるが、親日の国であるインドをもっと身近にある存在としてアピールしていかなければならない、と切に思っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。