まさに半導体バブルとはこのことであろう。TSMCの舞い降りた熊本県は、もはやウハウハ状態なのである。第1工場は2月24日に開所式が行われたが、岸田首相のビデオメッセージも届けられ「熊本半導体狂騒曲」ともいうべき盛り上がりを見せている。
台湾のTSMC社はシリコンファンドリーという製造請負業でありながら、ついに売り上げは12兆円を超えてきており、インテル、サムスンを抜いて事実上の世界半導体No.1の座に躍り出た。営業利益は実に5兆円というミラクルカンパニーになっている。
そのTSMCの第1工場には1兆3000億円の設備投資が実行され、政府は4760億円もの巨額支援をしており、このニュースが出たときには、驚きの声が業界内に満ちあふれたのである。そしてまた熊本第2工場の建設もアナウンスされ、こちらの投資額は約2兆円、政府は直ちに7320億円の補助金を決めたのだ。
この熊本におけるTSMC効果はとんでもないものであり、九州フィナンシャルグループによれば、7兆円くらいの経済効果は算定できるという。熊本県のGDPは6兆円であるからして、それを上回る新たな経済効果があるというのは、サプライズ以外の何物でもない。
TSMCの進出に伴い、装置、材料などの他県からの工場進出も相次いでおり、地元の中小企業まで含めれば100以上の新工場建設が実行されるわけだから、このインパクトも大きい。TSMCのいる工業団地の高速道路も作られ、スーパー、ホテル、旅館の誘致、コンビニ、外食の新たな進出も期待できるであろう。TSMCの当面の雇用は1700人。第2工場まで含めれば約3400人が働くことになる。
人口も増えていくし、超高層マンションもいっぱい必要になるだろう。不動産価格は一気に上昇しており、工場労働者の時給は2000円くらい出さないともう雇えないという有り様なのだ。タクシーの稼働率は以前に比べて2~3倍であり、宿泊施設も予約が取りづらい状況が続いている。
一方、TSMCと熊本に近いエリアの合志には、ソニーがCMOSイメージセンサーの大型工場を建設することになった。投資額は公表されていないが、敷地27万m²という広大さから見て、トータル1兆円以上の投資になるだろう。
先ごろ、ソニーが実行した長崎での増設棟Fab5のスケールが、延べ15万5300m²(クリーンルーム面積3万6800m²=現在のソニー熊本とほぼ同じくらい)であり、今回の合志新工場もほぼ同規模の工場がまず建てられると目測されるのだ。ちなみにソニーの23年度の半導体生産額(見込み)は1兆5900億円であり、国内生産ランキングでは1位になったとみられる。
熊本の半導体ばかりが取り沙汰されるが、宮崎においても、SiCパワー半導体の世界トップを狙うロームが40万m²を取得し、3000億円以上の投資を断行するという。ロームは東芝と連合軍を組み始めており、日本政府はこの提携が実現すれば、手厚い補助金を用意するという。
三菱電機も熊本のSiCデバイスの新工場を立ち上げており、フェニテックセミコンダクターも鹿児島で新たなクリーンルームを作っている。
こうした動きを見て、九州経済調査協会は「2030年までの10年間で九州の経済効果は20兆円」と試算しており、まさに九州シリコンアイランドの復活が九州経済を大きく上昇させていくというロードマップが見えてきたのである。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。