電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第118回

千変万化するこの時代に一撃、『電子デバイス産業新聞』ついにテークオフ!!


~前身の半導体産業新聞は91年1月の湾岸戦争の真っ只中で発刊~

2015/1/23

 いつからこんなにも1つの製品、1つの技術が長続きしない時代になってしまったのだろう。筆者は半導体記者になって現役を続けること35年、とうとう業界最古参記者となってしまった。目まぐるしいITの変転時代を駆け抜けてきたわけだが、歳のせいか古いことばかりが思い起こされる。そのくせ1時間前のことすら忘れてしまうことが多い。部下の記者たちは「それは立派な認知症でござんすよ」と、最近は冷たい眼で筆者を眺めるのだ。

戦後ニッポンの復興の礎を築いた吉田茂は日本の電機産業の今の姿をどう見ているのだろう
戦後ニッポンの復興の礎を築いた吉田茂は
日本の電機産業の今の姿をどう見ているのだろう
 筆者がデビューした70年代後半から80年代前半にかけて毎日のように話題になっていた製品や技術は、一体どこへ行ってしまったのだろう。今日にあっては、そのころにIBMが事実上、世界最大の半導体メーカーであったことをほとんどの人は知らない。IBMに対抗しようとしていたバローズというコンピューターメーカーをご存知かな。ミニコンの王者、サンマイクロのことを知っていますか(もちろん、もう彼らはこの世にいない!)。日本政府が血道を上げて開発していた次世代の通信システム、VANやキャプテンシステムのことを知っている人も少なくなってしまった。こんなことをブツブツつぶやいていたら、ある週刊紙の女性記者から「いよいよ泉谷クンもナツメロ版の紅白歌合戦に出たほうがいいかもよ」といわれてしまった。つらい、悲しい、うらめしいかぎりである。

 それはさておき、半導体産業新聞を発行してきた産業タイムズ社は、いよいよというべきか、満を持して1月22日付で『電子デバイス産業新聞』発刊に踏み切ったのだ。この新媒体は近未来の成長産業に徹底フォーカスする専門紙と位置づけられている。半導体産業、一般電子部品、自動車産業・部品、電子ディスプレー、太陽電池やリチウムイオン電池などの各種電池および新エネルギー分野、プリント回路・実装技術など、すべてのデバイス産業をフルカバーする初の専門紙となる。次世代成長産業として期待される医療、航空、ロボットなどの動向も詳しく報道し、各種製造装置や材料についても最新取材でリポートしていく所存である。

 つまりは、デバイスにおける時代の流れがIT一本槍であった状況から、自動車やメディカル、新エネルギーなどに大きく軸足を移している状況を何としても捉えたい、との視点でこの新媒体は編纂されるのだ。もちろん屈強の記者諸君が全国を駆け回り、地べたを這いずり回るような取材で捉える情報を満載していく。そしてまた、ユーザーニーズはどこにあるかをいつもいつも考えて、お役に立つ情報を提供していかなければならない。なお、この新媒体は約四半世紀にわたって発行し続けた半導体産業新聞を一大リニューアルすることで誕生するのである。

 前身となる半導体産業新聞の発刊は1991年1月21日であった。筆者もまだ三十台半ば過ぎで若かった。この発刊号の最終校正をしている時に湾岸戦争が勃発し、このラジオ中継を聞きながら目をしょぼしょぼさせて、食い入るように紙面を確認していたことを思い出す。
 半導体産業新聞創刊号の表紙を飾った人は当時、東芝半導体を率いていた江川英晴氏である。このころは常務取締役であったが、後に副社長にまで昇格された。
 ちなみに江川氏は静岡県出身、1955年4月に東京大学を卒業し東芝に入社する。82年4月に半導体技師長に就任。1MDRAM旋風を巻き起こした立役者の1人として、その活躍は今も語り継がれている。日本初の反射炉を作ったことで知られる伊豆韮山の代官、江川太郎左衛門の孫である同氏は、名門の血を引きながらも強い意志力、戦略の正確さで国内外の評価の高い人物であった。しかし、惜しまれながらも97年8月22日午前5時54分逝去する。

 ところで、91年段階にあって東芝半導体はワールドワイドでNECに次ぐ2番手に位置し、世界No.1を狙う勢いを見せていた。驚くべきは、約25年前であるというのに、東芝はこのころすでに半導体生産額で7000億円を超えていたのだ。半導体産業新聞創刊号に華々しく登場した東芝が、約四半世紀を過ぎてもなおかつ世界のトップステージにいることは一記者として何とも嬉しいばかりだ。

 多くの日本の半導体企業が凋落・後退・消滅していくなかで、東芝だけは生き残っている。このことがどれだけの励みを関連する業界の人たちに与えてきたことだろう。ただ生き残っているばかりではなく、今期の東芝の半導体部門は大黒字を計上することが確実なのだ。そしてまた、5000億円を投じる四日市の新工場に続いて、岩手などを候補地とする巨大新工場を建設することもアナウンスした。あくまで徹底抗戦、の構えなのだ。フラッシュメモリーにおいて、サンディスクと連合軍を組み、強豪サムスンと対抗する同社は、「ニッポン半導体の灯を消さないでくれ」と思っている人たちのすべての期待を担っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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