「MRAMはまさにAI、メタバース、SDGsのいずれにわたっても時代を変えていく魔法の神器になるだろう。消費電力が低いことが圧倒的な強みであり、将来は光電融合素子の起爆剤にもなるかもしれないのだ」
東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センター長の遠藤哲郎氏
こう語るのは、MRAMをコアとするスピントロニクス半導体の開発で世界に最先行する、東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センター長の遠藤哲郎氏である。よく知られているように、遠藤氏はかつてニッポン半導体のメモリーの最先端を走っていた東芝の出身なのである。そしてまた、東北大学発の半導体ベンチャーであるパワースピンの代表でもあるのだ。
それにしても、年明けから驚くべきことがいくつも起こっている。その中でも出色なのは、台湾のファンドリー3番手であるPSMC(パワーチップ)が宮城県仙台エリアに新工場立地、つまりは舞い降りたのである。投資額は1兆円近いとも聞いている。そして、比較的ミドルレンジの微細加工を手がけるファンドリーとして独自の地位を築くべく、日本に進出したともいう。
そのPSMCが何とパワースピンと提携し、2029年からMRAMの量産を目指すというのだ。MRAMは記憶用半導体の中でも異色の磁気記録式メモリーであり、いわゆるスピントロニクステクノロジーを使うことによって消費電力を圧倒的に下げられるのだ。消費電力は普通に考えても既存のメモリーの10分の1に抑えられる。
使いようによっては電力を1000分の1に抑えられるのだ。次世代のメタバースにおける本命デバイスともいわれるスマートウォッチに採用されることは必然的となってくるだろう。これまではすべてDRAMが搭載されていたが、MRAMに変えることによってまさにゲームチェンジになるわけであり、消費電力をものすごく抑えることができる。また、生成AI向けデータセンターの利用にも十分貢献することが予想されている。
「SDGs革命が進展する中で、車載向け半導体の消費電力をどう抑えるかが、まさに緊急課題となっている。我々の開発では、ロジックやパワー半導体もあわせてモジュール化することでMRAMをコアに使えば、圧倒的な低消費電力が実現できる。また、問題となっていた高温に対する耐久性も実証されてきた」(遠藤氏)
そしてまた、将来のAI、メタバースなどには超高速性が求められている。これを実現するためには、光電融合素子という技術が必要であり、これについては世界一を誇るNTTの光技術を応用するしかない。IOWNという技術によって電子と光のクロスオーバーをはかることができるのが分かってきた。IOWNに対しても、東北大学は十分に協力できる技術を持っているというのであるから心強い限りなのである。
ニッポン半導体の技術的な遅れと量産で負けるというかたちがずっと続いているが、MRAMをコアとするスピントロニクス技術、NTTの光電技術が世界の最先端機器に一大ゲームチェンジをもたらすことになるのかもしれないのだ。頑張れ!ニッポン半導体!!と心を大にして叫びたい気持ちなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。