垂直統合型で戦ってきたニッポン半導体の歴史を考えてみれば、いわゆるファブレスとファンドリーという現代のカルチャーにはそぐわないところが多い。これが日本の半導体産業の衰退を招いたと指摘する動きも多い。ところがどっこい、我が国にもファブレスカンパニーはしっかりと存在するのである。
メガチップスは、これまで国内ファブレスを引っ張ってきた存在だ。アミューズメント、ASIC、通信、ロボットを四本柱にするカンパニーであり、ここのところ少しトーンダウンしているものの株式上場を果たしている名門のファブレス企業なのである。
ソシオネクストは先端プロセスを用いた
国内屈指のファブレス企業
そして今、にわかに注目を集めているのがソシオネクストである。株式市場において常に注目されている。ここにきて株価は3300円前後であるが、AI分析によれば、強気買いをしても良いという話が多い。同社の株価は、2023年夏ごろには1000円を大きく割り込んでいたわけだから、当然のことながら投資家は熱い目を向けているのだ。
ソシオネクストの設立は14年。富士通とパナソニックのロジック半導体部門が統合する形で発足し、自社工場は持たない。台湾のTSMCなど数社に委託している。国内の半導体企業は40nm世代までしか対応できないことに対し、同社は5~7nmという先端品を設計できる唯一の国内メーカーなのである。
同社の戦略は、なんといってもユーザーのカスタマイズに素早く応えられることである。最近になっては、さらに踏み込んだ最先端微細プロセスでの半導体開発に着手している。
同社としては、初めての3nmを使った最先端の次世代自動車向けの半導体チップ開発にも取り組んでいる。自動運転システム、さらにはADASなどに向けたチップを設計および開発しており、TSMCに製造を委託し、26年から量産を始めるのだ。
さらに加えて、ついに現状で最も高いレベルの2nmの半導体の設計開発にも取り組むことを決め、なんと英国のアーム社と協業する契約を結んだ。注目されるのは、このサンプル品には機能が異なる半導体をブロックのように組み合わせるチップレットを採用することだ。面積あたりのデータの処理能力などを高める手段として注目される技術であるが、主な用途はデータセンターなどである。
ソシオネクストは基本的に、自動車、データセンター、ネットワーク、スマートデバイスの4分野を徹底強化する方向にある。そして、グローバルな半導体エコシステムの中で開発競争力を高めるために、先端テクノロジーを熟知したエンジニアで構成されるグローバルR&Dリーディングチームを設置しており、これがものを言っている。スピーディーに、しかも直線的に企業の求めるチップを提供できるという強みは大変なものがある。今後は、いまや大ブームのAIチップがらみのビジネスに、どれだけ深く参入してくるかがある。
先述のように、ソシオネクストは富士通とパナソニックのロジック半導体部門が統合する形で発足した企業である。しかし、パナソニックは、半導体生産から撤退してしまったし、富士通もまた、半導体の量産という点では大きく後退している。そういう中にあって、「富士通とパナの半導体は死なず」を掲げるソシオネクストの大活躍を今後も見たいと思っている人たちは非常に多いのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。