2024年はどんな年になるのだろう!と多くの研究機関そして多くの評論家・アナリストが予想しているが、こうした類のものは当たらないことが多い。だいたいが最近のトレンドをベースに流行を追いながら予想しているために、一過性のブームのすたれを読み切れない。
ところが、世界人口をベースに考えてみればあまり当たりはずれは少ない。23年という年は史上初めて世界の人口が80億人を突破したのである。そしてまた、これまで人口世界一を誇っていた中国を抜き去り、インドが僅差ではあるがトップに躍り出ており、その数は実に14億2860万人。
ちなみに少子高齢化が進み、人口的には全くダメダメと言われている日本は1億2330万人で、世界ランキング12位となっている。世界GDPでは、ドイツに抜かれ4位に後退したことが盛んに喧伝されているが、人口12位でありながらGDP4位にいることは並たいていのことではないと言っておこう。
それはさておき、世界の産業というものは所詮人口に比例している。つまりは人間たちの生きるためのインフラが何といっても重要産業なのである。世界最大の産業はいうまでもなくエネルギーである。これがなければ生活が成り立たない。実に1300兆円の巨額に達しており、これに次ぐ第2位の産業は食料品であり、850兆円となっている。もちろん人間は食べなければ生きていけない。
第3位の産業は電子情報であり、450兆円。第5位は自動車であり、400兆円。そして医薬品もまた200兆円のビッグマーケットとなっている。
こうしたインフラ産業は、人口が増えれば増えるほど間違いなく伸びる。ここ数十年の内には世界人口は100億人を突破するであろうし、ますます伸びていくことになるわけだ。
「そんなことも言ったら身も蓋もないよ。メタバースや人工知能(AI)さらには、SDGsなどのトレンドを読み込んでこその経済予測じゃないか」と筆者が親しくする著名アナリストは声を大にして叫ぶのである。しかしながら筆者は、かなり冷めた目で彼の言うことを聞いており、確かにトレンドはあるけれど、所詮はインフラの中で変化が起きているだけだと分析している。
エネルギー産業というものを考えれば、SDGs推進の中でひたすらにカーボンゼロが最大課題と考えている人が多い。環境に優しくなければ生きている資格すら無い、と言い切る人たちもいるのである。
確かにそれはそうだ。ただ、カーボンゼロに向かっていっても、インフラとしてのエネルギーは絶対に必要となる。太陽電池、風力発電、地熱発電、バイオマス発電など様々な物があるが、どれもパーフェクトの決め手とはならない。石炭・石油などの化石燃料の置き換えとして、世界全部が頑張ってやっているのだが、その歩みはのろいばかりだ。
そうした情勢下で米国のバイデン大統領が強烈に推進しているのが、水素エネルギーなのだ。何と水素の開発について今後55兆円を投入するというのであるからして、驚き以外の何物でもない。米国の場合は天然ガスを分解して水素を製造する作戦をとっている。ところが、中国や日本においては石炭を分解して水素を取りだすという方法を追求しているようだ。
ここで日本において問題となるのは国内の炭鉱を全て閉めてしまったので、石炭は一つも取れない。世界の石炭の産出量は81億tであり、何と中国はこのうち50億tを産出する最大の国である。日本政府は水素エネルギーを追求するならば、どうしても中国の石炭の力を借りなければならない。この意味でも日本は隣国の中国を大切にするべきなのだ。
水素エネルギー発電という世界では、日本の川崎重工業は最先行する技術をしっかりと作り上げている。そして三菱重工業は水素を使うガスタービンの開発で世界をリードしている。面白いことになってきたのは、水素によって日本の重化学工業が復活する気運が生じてきたことだ。それにしても、すべてのエネルギーをコントロールする最大のコアは、やはり半導体にあるのは間違いのないところなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。