電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第553回

(株)タムラ製作所 代表取締役社長 浅田昌弘氏


100周年へ海外増強など布石
欧米比率30~40%を目指す

2023/12/1

(株)タムラ製作所 代表取締役社長 浅田昌弘氏
 2024年度に創業100周年を迎える(株)タムラ製作所(東京都練馬区)は、主力のトランスをコアに、欧米でのシェア向上、将来への布石となる新たなイノベーションを巻き起こすべく、着実に歩みを進めている。現況、欧米への布石、長期ビジョンなどについて、代表取締役社長の浅田昌弘氏に幅広くお聞きした。

―― 市況感について。
 浅田 中国の低迷、そしてFAをはじめとする産業機器関連需要の弱含みが懸念材料となっている。当社はまだ受注残を抱えているため、まずはその解消に全力を挙げている段階ではあるが、新たな受注は弱含んでおり、今後への影響が不安材料である。半導体の回復は24年4月以降と予想する。なお、米国のお客様からはデータセンター向け大型トランスリアクターや蓄電システム向けリアクターなどで受注を得ており、プラス材料になっている。

―― メキシコ工場における増強投資の進捗は。
 浅田 当社メキシコ工場では、エネルギー関連市場向け大型トランスリアクターの増強を進めており、23年9月に増設が完了し、10月から設備導入を始めている。順調に立ち上がれば、23年度下期には上期比2倍へ能力が引き上がる予定。最終的に同3倍くらいまで能力を高めるために、第2工場の増設も検討する。
 一連のメキシコ工場関連の投資総額は1桁億円程度になるだろう。米国のIRA(インフレ抑制法)も追い風になっている。なお、大型トランスリアクターは製造に人手を要し、しかも熟練度が問われる。人材の確保、技術の伝承も重要な要素となる。

―― トランス周辺デバイスにも商機があるのでは。
 浅田 トランスに合わせて、最適なゲートドライバーモジュール、電流センサーなどを提案できれば、お客様にも、当社にも相乗効果が見込め、倍々ゲームの伸長が期待できる。ただし、別の視点からみれば、トランスが変わる必要があることを痛感している。

―― その理由は。
 浅田 半導体はシリコンからSiCやGaNなどワイドバンドギャップ半導体へ進化し、それに伴い周辺デバイスも技術進化を遂げていく。しかし、まだトランスだけが変わっていない。そのため、半導体はフルのパフォーマンスを発揮しきれないとみている。トランスの形を根本的にガラッと変えることで、半導体の100%の性能を引き出せると見通している。

―― 具体的施策を。
 浅田 小手先の改善ではなく、産官学連携で根本的なイノベーションに挑もうとしている。ここ2年ほど、複数の大学とともに、化学材料も駆使した当社ならではのオンリーワンとなる電子部品の開発に取り組んでいる。もしも開発に成功すれば、日本発の世界的なイノベーションになることも期待できる。長期を見据えた開発である。

―― ルーマニアでも増強を進められています。
 浅田 欧州への展開を強化するため、初期投資額として約十数億円(土地・建物・設備などを含む)を投じて、ルーマニアに生産拠点を新設する計画を進めている。具体的には、22年12月にルーマニアに新会社(ルーマニア・ロミツァ県フェテシュティ)を設立済みであり、24年11月からの生産開始を予定している。現状、当社はゲートドライバーや電流センサーを中国で製造しており、欧米に生産拠点がないことが課題である。まず第1ステップとして中国の蘇州工場で生産した充電器をルーマニアに輸送し、現地で組み立てて販売するかたちを想定している。最終的にはルーマニア工場から欧州市場へ電子部品の安定的な供給体制の構築を図っていく。

―― BCP対策ですね。
 浅田 世界全体でみれば需要が弱含むなか、資金の配分などを含めてどうバランスさせながら海外への拡販体制を強化するかが非常に重要になる。その意味で、例えば人口増加に伴う需要拡大が見込めるインドや、比較的安い人件費で勤勉な労働力を得やすい日本国内での増強など様々な選択を検討していく。なお、日本では現段階では特定の場所など未決定だが、候補として会津タムラ製作所なども挙げられる。

―― 100周年に向けて。
 浅田 22~24年度の中期経営計画において、最終年度が創業100周年に該当する。22年度で売上高はすでに目標値の1000億円超となる1080億円を達成し、23年度も前年度横ばいを見通す。ただし、営業利益は22年度48億円、23年度は46億円の見込みであり、目標値に未達だ。100周年となる24年度には営業利益60億円以上の達成を目指す。また、中国偏重から脱却すべく、全社売上高に占める欧米比率を現状の24%から30~40%へ高めていく。24年度から緩やかながら回復基調に入るとみており、最終年度に期待している。そして100周年の次へ、着実に歩みを進める。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年11月30日号12面 掲載

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