9月20日に創立45周年を迎えたディスペンサーの総合メーカー、武蔵エンジニアリング(株)(東京都三鷹市)は、同日付で取締役副社長の生島直俊氏が代表取締役社長に昇格する人事を発表した。創業以来、一貫して「液体精密制御」技術を追求し、半導体・エレクトロニクスから医療・医薬、バイオ、食品といった分野へ用途を広げ、1万社を超えるユーザーを確保するに至った同社の展望を生島新社長に聞いた。
―― ご略歴から。
生島 2003年に入社し、制御設計や開発部門、技術部門長、マーケティング責任者などを歴任し、コロナの流行に前後して管理部門や財務・人事関係も経験するなど、当社におけるあらゆる業務に携わってきた。前職がソフトウエアの開発エンジニアだったため業務にはすんなり馴染めたが、メーカー勤務が初めてだったこともあり、激しい競争環境のなかでブランドを作り上げていく難しさを痛切に感じてきた。
そうしたなかで、00年代に液晶テレビの大型化が急速に進み、その製造プロセスの1つのODF工法に当社の微小精密滴下技術が広く採用された。その技術がガラス基板の大型化やテレビの低価格化に何世代にもわたって貢献し、イノベーションの現場に関われたことを大変嬉しく思っている。
―― 事業の概要は。
生島 ディスペンサーの総合メーカーとして、塗布に関するすべてを持ち合わせているのが当社の強みであり、そのほとんどを自社開発で培ってきた。「吐出」と「モーション」を融合した「装置化」までを手がけており、個別の専業メーカーはあっても、すべてを持ち合わせているのは世界でも当社だけだろう。
売上構成は、半導体やFPDを含むエレクトロニクスと自動車分野が大半を占めるが、近年は自動車関連のウエートが増している。また、バイオ、医薬、食品などの新規分野の開拓も進んでいる。
―― 各分野の市況は。
生島 エレクトロニクス分野では、小型・薄型・高集積化の進展とともに、ねじ止めやカシメといった接合技術を接着に置き換える流れから塗布ニーズが増えていることに加え、先端パッケージで前工程と後工程の中間工程が注目を集め、当社にも数多くの声をかけていただいている。FPDはここ数年の停滞から一転、23年から数年にわたる複数の大型案件を獲得しており、巻き返しを図る。
自動車分野は中国や欧州にも顧客が広がっている。熱処理レスや溶剤レスといった環境面に対する要望が強く、使用される材料も変わってきているため、前後工程をより意識した事業展開が必要だ。
そのほかの分野では、コロナ禍で製薬向けに特需があったことに加え、直近では培養食肉をプリンターで立体成型する3Dフードプリンティングが注目され始め、本格的な市場拡大の動きにつながりそうだ。
―― これまで自社開発がメーンでしたが、今後の方向性は。
生島 吐出とモーションは切り離せないため、この研究開発は自前で今後も続ける。装置に関しては、半自動/全自動化の開発を手がけてきたが、今後はより全自動に向けた開発を強めていくつもりだ。産業DX全般への対応を考えると、当社のコアに付随する技術は、パートナーとの協業を必要に応じて駆使していきたい。
―― 設備投資について。
生島 製造拠点の東京テクニカルセンター(川崎市麻生区)を設立して15年が経つため、将来に備えて近隣に新工場を建設する計画を練っている。倉庫などを備えてデリバリー機能も充実させたい。なお、今後も製造は国内にとどめ、製販一体のコンセプトを維持して、一貫した日本の品質で世界と戦いたい。販売拠点については、02年に進出した香港を皮切りとして、短期連続的に各国へ進出し、11拠点を数えるまでになった。今後はベトナムやインドに進出してマーケットをさらに広げるつもりで、EMS業界の動きを慎重に見極めているところだ。また、欧州での売り上げも伸びてきており、独ミュンヘン拠点の拡大を検討している。
―― 今後の抱負を。
生島 ディスペンスは制御のウエートが高い分野であり、今後のAI活用などを視野に入れてソフトウエアのエンジニアを増員していきたい。創業社長からのバトンタッチは確かに大きなプレッシャーだが、当社が掲げる「ミレニアムカンパニー(1000年企業)になる」という目標から見れば、その歴史の一部を私がつなぐに過ぎない。創業当初からの理念を変えることなく、技術でつなぎ、人を育てることを第一として社業拡大に努めていく。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2023年11月17日号1面 掲載