㈱村田製作所のシリコンキャパシタ事業が順調に成長を遂げている。ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場の拡大で需要が増加しているほか、車載分野でも引き合いが増えている。独自技術による差別化と生産増強を進め、さらに事業拡大を目指す方針だ。コンポーネント事業本部本部長の山田芳弘氏と、シリコンキャパシタ事業を担当するMurata Integrated Passive Solutions(MIS社)のマネージングディレクター、フランク・ミュレー氏に話を聞いた。
―― シリコンキャパシタ事業の来歴から。
山田 MIS社はNXPセミコンダクターズからスピンアウトしたIPDiA社が前身で、2016年に村田グループ入りした。もともと医療機器やテレコム向けが中心だったが、村田グループのネットワークを活用して販売領域を拡大し、子会社化から現在までの売上規模は3倍となった。現在は、RFモジュールやスマートフォン(スマホ)プロセッサー、光通信といった通信関連分野が売上高の約30%を占めているほか、LiDARなど車載向けの引き合いも増えている。シリコンキャパシタ市場全体ではトップシェアを持つ。
―― 独自技術で大容量化を実現している。
ミュレー 「トライポッドピラー」というテトラポッド状の独自構造体で表面積を広げ、静電容量を高めている。これに加え、新たに開発したナノポーラス構造を組み合わせ、従来比で5倍の高容量化を実現して23年にセルラー向けに量産化した。さらなる小型化・薄型化が可能になるため、スマホやHPC用プロセッサー向けのキーテクノロジーになると考えている。
―― 製品サイズについて詳しく。
ミュレー 厚みは最薄30μmを実現し、50μm品を量産化している。サイズはウエハーをカットするため顧客ニーズに自由に対応できるが、例えばスマホ用は1mm角や0.5mm角品をラインアップしている。
―― 積層セラミックコンデンサー(MLCC)との棲み分けは。
山田 MLCCは厚さ100μm程度が限界とみられており、温度特性にも制約がある。シリコンキャパシタはこれらを凌駕しているので、MLCCが対応困難な用途をカバーできる。そのためMLCCを単純に置き換えるものとは考えておらず、コンデンサーメニューを広げてより幅広い顧客ニーズに対応可能にするものと位置づけている。
―― 生産体制と能力増強計画について。
ミュレー MIS社は仏カーンに本社と製造拠点を置いており、6インチウエハーでシリコンキャパシタを製造している。パッケージやテスト工程は外部委託しているが、社内にも開発用の設備がある。現在、8インチラインを整備しており、月1000枚体制を構築する計画だ。その後のさらなる増強も視野に入れている。
―― 将来的な拠点増設の考えは。
山田 具体的に決まっていることはないが、次のステップは8インチファブの増設になるだろう。日本の拠点はフィンランドの子会社のMEMS製品を生産しており、受け皿としてのポテンシャルがある。
―― 今後の開発方針を。
ミュレー まずさらなる薄型化を図り、30μm品の量産化を目指す。薄くなるとハンドリングの問題も出てくるので顧客ニーズとの兼ね合いになるが、20μmの領域を開発していこうと考えている。
また、HPC市場の成長に伴ってより高容量のコンデンサーをハイパワーCPU近傍に置きたいというニーズが高まっており、薄さと高容量の両立が求められている。1mm角あたりの静電容量は現在1.3μFだが、これを27年までに2~3μF、30年に4μFに高めたい。車載用ではさらなる高信頼化が求められているので、信頼性向上に向けた開発を合わせて進めていく。
―― 今後の事業目標を。
山田 HPCが牽引するかたちで市場の高成長が予測されており、車載市場も拡大する見通しだ。これら2分野を中心に事業拡大を図り、30年度に現在の3倍の売り上げを目指したい。成長が期待される市場だけに新規参入の増加、競争激化も見込まれるが、コア技術で差別化してトップシェアを確保していく。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2023年11月9日号12面 掲載