電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第116回

街そのものが異業種交流の場「京都」は常に新しいものを生み出す!!


~醤油屋から航空機部品加工に飛躍した旭金属工業・山中社長の語る意味~

2015/1/9

 古都・京都には多くの百年企業が存在していることについては、何回か書かせていただいた覚えがある。半導体製造装置大手のSCREENホールディングス(旧大日本スクリーン製造)、医療機器などで有名な島津製作所、携帯電話に使われる重要部品を作っている福田金属箔粉工業など、その数は枚挙に暇がない。そしてまた京都は、古い伝統工芸と文化、ひとを大切にしながらも常に革新的なアイデアで成長するベンチャー企業を生み出している。電子部品の世界でも村田製作所、ローム、ニチコン、日本電産などは代表的な京都企業であり、最先端技術で勝負し、多くは最高レベルの収益を上げているのだ。

旭金属工業の山中泰宏社長
旭金属工業の山中泰宏社長
 さて、京都の上京区下立売という古い商店街の一角に旭金属工業という会社がある。前身は醤油屋であり、その始まりは400年前にさかのぼるという。このお醤油屋さんが、太平洋戦争が終わってその復興事業を起こそうという地域の運動のなかで、何と突然にして部品めっきの世界に入ってしまったのだ。昭和23年のことである。山中泰造という人が現在の旭金属工業の創始者となるが、そのお兄さんが京都大学で冶金を教えており、その関係で錆びたものをめっき付けするというリペアから、この業界に参入した。現在にあって同社を率いる2代目の山中泰宏氏は当時を振り返ってこう述べるのだ。

 「父は静かな人であり、押し付けがましいところは全くなかった。ただ言われたことはきっちりと守る、という厳しい仕事ぶりであった。創業当初は島津製作所やオムロンなどからめっき付けの仕事をもらっていた。1976年に島津製作所が航空機分野に参入することを契機にアルマイトなどの仕事に入っていった。これが今日にあって航空機分野を主力とする当社の始まりであった」

 旭金属工業の年商は約60億円となっており、ここ数年間はかなり高い成長を続けている。航空機の世界的なブーム、さらには国産ジェット機の本格開発などが同社の事業を後押ししているのだ。同社の場合、機械加工から非破壊検査、アルマイト、めっき、塗装、組立までの工程を持ち、いわば素材からサブ組立までの一貫生産を確立していることが強みだ。

 「表面処理をキーテクノロジーとして前後工程の結合を提案している。高額機械も多く取り揃えており、4億円もする横型5軸マシニングセンターをはじめ、多軸旋盤、全自動アノダイズ、さらには3次元測定器などもラインアップしている。組立・洗浄では、クリーンルーム(10万・1万・1000・100)も完備している。こうした設備投資に一切手を抜かないのは当社の哲学だと言ってよいだろう」(山中社長)

 同社は航空機関連産業としては、一番格付けの高いTier1企業であり、多くの著名メーカーから工程認定を取得している。海外ではボーイング、エアバスなどの機体メーカー、国内では三菱重工業、川崎重工業、IHIなどのエンジンや装備品メーカーから深い信頼をもらっているのだ。航空機部門で成功を収めた同社は、数年後の目標として100億円突破を狙っている。航空機分野で成功するコツは何ですか、という問いに対し、山中社長は少しだけ苦笑いしてこう答えた。

 「赤字でもやるかどうかの決断力だろう。お客様の信頼を裏切らないという思想を貫くならば、必ず儲かるからやるということにはならない。部品だけでも入りたいという企業が良く見られるが、それだけでは絶対赤字になるだろう。カスタマイズの多い部品加工では、そのソフトウエアだけでも3000万円はするのだ。顧客の期待に応える仕事をするためには、どんどん引き上げられてくる要求に応える技術と人材が必要なのだ。航空機関連という仕事は、実にロングレンジの仕事であり、スピードも重要であるが、何といっても品質がモノをいうだろう」(山中社長)

 ところで山中氏によれば、京都という街は伝統工芸の繊維、陶磁器、金箔など様々なものが今日まで伝わり、また日本国中の色々な産業が都としての京都に流れ込んできた歴史があり、これが大切だという。いわば京都という街そのものが日常的な異業種交流の場となっているのだ。先斗町をはじめとする花街、多くのしゃれた料亭、お寺の茶室の一室、さらにはゴルフ場のロッカーですら商談や技術論議の場になってしまう。新鋭ベンチャーが次々と登場してくるパワーの源泉は、伝統技術と先端技術のクロスオーバーが常に行われてきたこの街の歴史にあるのだ。

 「京都のことを冗談めかして“狂徒”が群れているところ、という人がいる。これはあながち外れていない。要するに、他の人と違うことをやりたい、というちょっとおかしい人たちの集まっているところなのだ。またオーナー企業が多いだけに決断力は早く、一度決めたら全速力で駆け上がっていく。古いものをデフォルメして最先端にアレンジしていく能力については、京都人は群を抜いているといっても良いだろう」(山中社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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