グンゼ(株)(大阪市北区梅田2-5-25、Tel.06-6348-1313)は、インナーウエアをはじめとした「アパレル事業」で知られているが、プラスチック製品やタッチパネルなどを扱う「機能ソリューション事業」、スポーツクラブ運営などを行う「ライフクリエイト事業」など幅広い事業を展開しており、企業としては1896年に京都府綾部市(旧京都府何鹿郡)で製糸業として創業したのが始まりだ。そして現在、その綾部市に生産の中心拠点を唯一構えているのが、メディカル事業部(綾部市青野町棗ヶ市46)である。
■生体吸収性素材の医療製品を展開
同社は1982年にメディカル分野の基礎研究を開始。アパレル事業の加工技術と機能性ソリューション事業の高分子技術を融合した研究開発を進め、86年に縫合糸の販売を開始した。製品の特徴として挙げられるのは、生体吸収性のある素材を使用していること。つまり、時間が経過することで、体内で分解される特性を持つ。そのため術後の抜糸の必要がなく、患者の負担を減らすことができる。グンゼでは、その生体吸収性素材の技術をベースに、製品ラインアップを縫合補強材、骨接合材、人工皮膚(真皮組織の再生に使用)、人工硬膜などへ展開し、事業規模を拡大してきた。
前述の製品はメディカル事業部の拠点がある綾部工場で生産している。同工場は3階建てと平屋建ての2棟で構成(延べ約1万m²)。現在、メディカル事業の売上事模は20億~30億円(2013年度)であるが、グンゼではこれを20年度に80億円まで引き上げることを目指しており、新たな主力事業とすべく同工場の人員体制を年々強化している。
製品の品質の高さから、海外でも需要が増加しており、12年度に32%であった海外売上高が13年度は44%まで拡大。うち約半分が中国である。グンゼではその中国において15年1月から新工場(深市、延べ約3000m²)を稼働させる予定で、縫合糸の生産から開始する方針だ。
■4月にQOL研究所を設置
綾部工場から徒歩10分の距離にはR&D施設のグンゼ研究所がある。14年4月、その所内にQOL研究所が設置された。メディカル分野の研究部門をベースに、健康・医療市場をターゲットにしたマーケティング・商品開発機能を担当する専任組織で、グンゼが持つ他分野の技術シーズも集中投下できる体制を構築し、健康医療・QOL(quality of life、生活の質)分野の事業拡大に取り組む研究部門だ。同社では14~20年度を期間とした中期経営計画「CAN20」において、20年の経営目標として「人々のQOLの向上に貢献する健康・医療関連分野を成長の核とするとともに、集中と結集によりそれぞれの分野で業界オンリーワンの地位を確立する」と掲げており、QOL研究所が大きな役割を担うことになる。
現在、主な取り組みとして、単心室症用人工血管の研究開発をエール大学と進めている。単心室症は心臓の部屋のうち左心室と右心室の区別がなく、心室が1つになっている先天性の難病。この病気の手術の際には人工血管が用いられ、術後は血栓を作らないために抗凝固薬を一生飲み続ける必要がある。しかし、共同開発した人工血管は時間の経過とともに周囲に細胞が集まり、新たな血管が形成される。加えて、人工血管の材料には強みである生体吸収性素材を使用しており、術後約半年で分解・吸収され、形成された血管組織のみが残るというものだ。米国において、すでに臨床が開始されており、15年春までに6例の実証が行われる予定。早ければ16年にも製品化できる見通しだ。