半導体産業人協会(SSIS、東京都新宿区新宿6-27-10、Tel.03-6457-3245)の論説委員会は、会報「Encore(アンコール)」のなかで、日本半導体ファブの活性化に関して様々な議論を交わす取り組みを始めている。論説委員長の井入正博氏にその経緯と今後の方向性を伺った。
―― 論説委員会で議論を始めたきっかけから。
井入 論説委員会が設立されたのは約5年前で、当時SSISの理事長だった牧本次生氏が始めた新たな試みの1つだった。私が3代目の委員長に当たる。
当初は日本半導体の歴史観をまとめようというのが始まりだったが、東日本大震災の発生をきっかけに、OBが自分たちの経験から半導体業界に対して何か協力できないかと考えた。
現場で奮闘しておられる現役の方々に対し、すでに引退した我々がとやかく言うのはおこがましい。だが、逆に自由な立場から発言できるという利点もあり、反転攻勢に向けて何かのヒントや手がかりになればと考えた。過去を振り返るより将来に向けてどうするかを議論しようという話に落ち着いた。
―― これまでの活動は。
井入 2013年度は、近年成長が著しい海外ファブレスを取り上げ、日本ファブレスが成功するための提言をまとめ、Encoreに記事を掲載した。このファブレスの件を含めて、過去の議論の内容はSSIS論説委員会のホームページ(
http://www.ssis.or.jp/committee/ronsetu/)ですべてご覧いただけるようにしている。
―― 14年度は日本半導体ファブの活性化が議論のテーマですね。
井入 仮にファブレスに転身して成功したとしても、ファブは残る。先端CMOSの微細化で海外勢に追随するのはすでに困難であり、ファンドリーに転身してもTSMCに勝つのは至難の業だ。スペシャリティーファンドリーが世界中であちこちに誕生している現状を考えれば、マチュア&ニッチなプロセスでも生き残る策があるのではないか。そうした方策を皆で探りたい。
―― 議論の進捗は。
井入 すでにEncoreに第1回の記事を掲載した。デバイスの数量が見込め、使い捨てさえ可能なアプリケーションは何かという議論からウエアラブルに対する期待感があり、そこに不可欠なデバイスとしてMEMSを量産するのはどうか、MEMSファンドリーとして活用してはどうか、という話が出ている。
MEMSはデバイスごとにプロセスが様々で、CMOSとの1チップ化も容易でない。X-FABやタワージャズなどが手がけてはいるが、TSMCやグローバルファウンドリーズのようなピュアファンドリーに生産を委託しているケースも散見される。
―― 日本企業の技術的強みが生かせそうです。
井入 技術論よりも体質論が問題だという指摘も寄せられている。日本の半導体ファブは工程数が多く、標準化に不熱心。国内の顧客しか相手にしない傾向が強いため、ファンドリー事業をグローバルに展開できないという厳しい意見もいただいている。
昨年ファブレスを議論した際にも出た意見だが、海外勢は標準化で大成功している。クアルコムが好例だろう。果たして、日本のファブにいる若手が世界を相手にビジネスの絵を描けるのかという意見もある。
―― 確かに、ファブにいらっしゃる方はすべての製造工程やマーケット情報を勉強する機会に恵まれてはいません。
井入 これは今春に経済産業省からの委託でアンケート調査を行った結果だが、日本のエンジニアは確かに機会に恵まれていない。だが、それだけでは済まない。海外のエンジニアは次の転職機会を見据えて今の職場で研鑽を積むが、安定雇用を望む日本人はモチベーションが薄い、世界で戦うには純朴・朴訥すぎるといわれている。
―― 今後の掲載スケジュールは。
井入 連載回数は決めていないが、まずはSSIS会員からの意見を募り、2回目以降の議論を深めたい。もちろん現役の方からのご意見も大歓迎だ。ぜひ委員会のメール(ronsetsu@ssis.or.jp)へご意見をお寄せいただきたい。我々OBだけで考えるよりも、より深い提言の策定につながるはずだ。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2014年12月17日号3面 掲載)