宮城県産業技術総合センターの所長室を訪ねた折に「THINK GLOBAL ACT LOCAL」という標語が壁に貼られているのを見た。これはどういう意味ですか、と所長の伊藤努氏に伺ったところ、「世界への大局観を持て、一方で、この宮城地域の見直しを徹底的にやれ、という意味なのだ」という答えが返ってきた。伊藤氏はみやぎ高度電子機械産業振興協議会の会長職も務めておられる。
同協議会は、リーマンショックの直後である2008年11月4日に設立された組織だ。宮城県知事の村井嘉浩氏が提唱する「富県宮城」に呼応して設立された。現状で県内企業、大学、支援機関など19人の役員で構成され、会員数は355団体に及んでいる。村井知事は自動車および電子産業を集積し、工業総生産額をその当時の8兆円から10兆円まで引き上げるとの目標を設定した。現状ではすでに9兆円を突破しており、目標達成に向けて多くの取り組みが進んでいる。
「富県宮城」の実現に向けて力強いスローガンを掲げる伊藤務氏
さて、伊藤氏は秋田市出身で、東北大学工学部で電気を学びソニーに入社する。ソニー仙台テクノロジーセンターの代表まで務めた方であり、民間企業のマインドでスピーディーな改革を進めていくべきだとの思いが強い。就任3年目に入っているが、常に現場に対し言っていることは、「依頼されたことを支援するだけでなく、広い視点から何をすべきかを考え、主体的に提案・実行する」ということだ。
同協議会の重点分野は、現状で3つに分かれている。半導体・エネルギー市場においては、すでに立地している東京エレクトロン宮城との取引創出・拡大、電子デバイスメーカー・関連製品セットメーカーとの取引創出・拡大、さらには環境・エネルギー市場分野における新製品開発支援を打ち出している。ちなみに先ごろ、昭和シェル石油系のソーラーフロンティアが大型工場進出を決めており、世界No.1の太陽電池メーカーになると宣言する同社に対しても取引創出・拡大を狙っていくのだという。
医療・健康機器市場に対しては、県内病院などの現場ニーズに基づく新製品開発支援などを行う一方で、医療機器メーカーとの取引創出・拡大を行っていく。第3の重点分野は航空機市場。宮城県下にはジャムコが進出しており、航空機整備や機体整備の工場がある。これをコアに、航空関連メーカーとの取引創出・拡大を狙い、あわせて航空産業の企業誘致を強烈に進めていきたいという。また、すでに航空機コンソーシアムを作り上げている秋田県とも共闘していく考えで、ゆくゆくは東北6県合わせての航空産業コンソーシアムを構想していくという。
航空機の共同受注体としてはAirs Miyagiを作り上げた。チャレンジャーとも言うべき6社が集結しており、そのメンバーは本田精機、引地精工、キョーユー、小野精工、鉄栄技研、登米精巧だ。
同協議会はセミナー、カンファレンスなどを積極的に行う一方で、ビジネスマッチングも展開している。平成25~27年度の目標としては、商談件数450件、アドバイザー派遣150回、プロジェクト支援事業ではコーディネーターの訪問件数300件を打ち出しており、成果目標の数値化を明確にしている。
「宮城県は住みやすく、食べるものもおいしく、人材も豊富だ。東京から最速で仙台まで1時間40分と至便であり、よくないところはほとんどない。しかし、あえて言えば、争いごとが嫌いででしゃばらない。しかして企業誘致ではこれがマイナス面となることもある」(伊藤所長)
展示会への出展支援にも力を入れている。半導体関連で最大の展示会のセミコン・ジャパン、エネルギー面では国際太陽電池展、医療関連ではメディカルクリエーションふくしまなど、年間7つの展示会出展をサポートしている。
伊藤所長がこの協議会発展のために作ったスローガン「THINK GLOBAL ACT LOCAL」は、宮城という地域が持つ潜在力をしっかりと見つめ直し、一方で世界に向けて発信する眼を常に持て、ということなのだろう。それはかつて伊藤氏が所属していたソニーが、町工場であった東京通信工業の時代から持ち続けていたスピリッツにほかならないのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。