西日本最大クラスの規模で開催された電子デバイスフォーラム京都(2014年10月30~31日)は、盛況裏に無事終了した。出展ブースには京都を代表する企業である村田製作所、ローム、堀場製作所が顔を揃え、かなりの賑わいを見せた。動員総数は約1000人を達成し、このイベントを主催する日本電子デバイス産業協会(NEDIA)のスタッフも胸をなでおろしたのだ。筆者も実行委員長として尽力させていただいたが、もし失敗すれば紅葉に染まる秋の京都の片隅で切腹して果てることになったのかもしれない。「ああ、良かった」と思うと同時に、来年はもっと頑張らなければと気持ちを引き締めた。
数多くのセッションが同時並行で開催されたが、特に目立ったのは自動車向けデバイスの3つのセッションであり、いずれもほぼ満杯という状況であった。筆者が聞いたなかで面白かったのは、「自動車の未来を支える次世代パワー半導体」というセッションである。とりわけ興味深かったのは、ロームの研究開発本部統括部長である中村孝氏が語るSiCパワーデバイスモジュールの開発実用化に関する講演であった。
「SiCパワーデバイスの最大の強みは、徹底的に無駄なエネルギーロスを削減することだ。これが本格普及すれば日本だけで年間約30TWhの省エネ効果がある。実に原子力発電所3~4基分の電力が節約されるのだ」(中村氏)
さて、SiCデバイスは優れた特性を理由に、すでに様々な分野で使用されている。太陽光パワーコンディショナー、エアコンなどの各種電源装置、プラグインハイブリッド車やEVのチャージャー、高速鉄道のカバー電源などにはかなり入っている。世界最大手のエアコンメーカーであるダイキン工業もSiCを多く活用しているが、室外機などの音が静かになることが通常のシリコンIGBTに比べ大きなメリットだというのだ。
ロームのSiCパワーデバイスは、2002年6月にMOS-FETの基礎実験を開始したことに始まる。2009年7月にはSiCウエハーメーカーのSiCrystal社を買収し、材料からモジュールまで一貫で作り上げる体制を確立した。2012年3月には世界初のフルSiCパワーモジュールの量産を開始した。取り組んでからの開発スピードは凄まじいものがあり、他社を圧倒している。
「現状ではダブルトレンチ構造によるデバイスの開発に全力を挙げている。トレンチMOSにいけばセル面積が小さくなり、抵抗が少なくなる。来春には量産スタートに持ち込みたい」(中村氏)
CEATEC2012ではEV、HEV向けに超小型のSiCインバーターモジュールを展示したが、ほぼiPhoneの大きさまで縮小したことで部門グランプリを受賞した。最近では、SiCが高周波に強いことを武器に、医療用加速器への本格採用を狙っている。これまでは真空管でやっていたものを置き換えていく。ここで実績ができれば大型の医療機器の電源に展開できるわけだ。CEATEC2014においては、超高圧パルス電源を発表したが、これもまた医療用電源機器を狙ってのものだ。
中村氏は講演のなかで度々におよび「後でコストに関するしつこい質問が来ると思うので、今から言っておきますが、ぶっちゃけSiCはシリコンIGBTにくらべて4~5倍は高いです」と素直に現状を認め、そうしたコスト高に関する質問を封じ込めようとしていたようだ。しかして、希代のヤクザ記者として知られる泉谷クンは、そんなことにはめげない。これだけ牽制球を投げられても、最後にしつこく「本当にコストは下がるのかい」との質問を浴びせたのだ。この意地悪な質問に対し、顔をキッとさせた中村氏は、たしなめるようにしっかりとこう答えたのだ。
「はっきりいって、コストを下げられるポテンシャルはシリコンよりSiCのほうが全然あるのだ。材料費がかかりすぎるといつも指摘されるが、実際のところトータルコストのなかに材料が占めるコストは20~30%くらいだ。量産効果で必ずコストは下げられる。2020年にはSiCパワーデバイスは、シリコンパワーにコストで追いつくと考えている」
これまた失礼いたしました、との思いでそれ以上の質問はできなかった。とても悔しかったが、一方でSiC頑張れ!!とのエールを送りたい。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。