電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第66回

過熱する韓国燃料電池市場


RPS施行が需要拡大後押し

2014/10/10

 韓国の燃料電池市場がにわかに熱くなりつつある。斗山(ドュサン)グループは、最近、未来成長動力に燃料電池事業を選定。LGグループも傘下に「LGフュエルセル」を設立して燃料電池市場に参入し、韓国国内トップのポスコエネルギーと三つ巴戦を展開している。

成長率は年30%と予測

 斗山グループは最近、建物用燃料電池の源泉技術保有メーカーの米クリアエネルギーパワー社を買収し、「斗山フュエルセルアメリカ」に社名を変更し、新しく船出させた。また、韓国国内の住宅用燃料電池開発会社「フュエルセルパワー」との合弁も決定。フュエルセルパワーは、高分子電解質燃料電池(PEMFC)関連の源泉技術を保有している。斗山は、燃料電池関連企業2社を買収することによって、住宅やビル用燃料電池に対する源泉技術を確保することになった。2社買収に3240万ドルを費やした斗山。近年の燃料電池の世界市場の減を考えると、果敢な投資戦略といえる。

 斗山が燃料電池事業を成長動力に定めたのは、市場の成長率に注目したからだ。斗山の資料などによれば、2013年の世界燃料電池市場規模は1兆8000億ウォン(約1895億円)に達した。今後、毎年30%強の高成長を続け、18年に5兆ウォン、23年には40兆ウォン(約4兆2000億円)まで成長する見通しだ。つまり、斗山は今こそが投資の最適なタイミングと判断したのである。とりわけ、再生可能エネルギー義務割当制度(RPS)の施行によって、韓国は世界最大の燃料電池市場に浮上し、かつ安定的な内需市場が形成されたことも、斗山の選択をバックアップした。

LGは17年に量産の構え

 LGグループは、LGフュエルセルシステムズを通じて、早ければ17年から発電用燃料電池を本格量産する計画だ。燃料電池とは、水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を作る次世代エネルギー源である。用途別によって、▽携帯機器用、▽自動車用、▽発電用に分けられる。このうち、LGが開発する発電用燃料電池は、数百個のセルをつないで作ったコンテナボックスサイズのモジュールで電力を生産し、建物などに供給する用途に使われる。

 LGは12年に燃料電池市場に参入するために、英ロールスロイスの子会社「ロールスロイスフュエルセルシステムズ」の株式51%を4500万ドルで買収し、社名をLGフュエルセルに変えた。筆頭株主はLGグループとLG電子、LG化学などである。

 また、サムスンSDIは、自動車用水素燃料電池を開発中といわれている。さらに、サムスンSDIは、燃料電池自動車のコア部品である膜電極接合体(MEA)も研究開発しているという。

設置容量が風力を上回る

韓国京畿道華城産業団地にそびえる燃料電池発電所
韓国京畿道華城産業団地にそびえる
燃料電池発電所
 13年の韓国燃料電池市場の設置容量は109MWとなり、前年の3MWとの比較では大幅に増加。京畿道華城産業団地に世界最大級の60MW規模の発電所が稼働したことで、設置容量が急増したのである。これは13年に61MWを記録した風力発電の設置容量を上回る数値である。韓国再生可能エネルギー市場において、燃料電池の設置容量が風力を上回ったのは初めてである。なお、14年の設置容量は330MWが予測されている。

 また最近、京畿道平澤市は、世界最大規模となる360MW級の燃料電池発電所の建設計画を打ち出した。第1段階で16年までに100MW級の発電所を建設し、段階的に増設して18年の完成を目指す。総工費2兆ウォン(約2105億円)に達するビッグプロジェクトである。

 さらに、ソウル市も燃料電池事業へ積極的に踏み出す。長期的には330MW規模の燃料電池発電所を建設する計画だ。このうち130MWは直接投資で、200MWは発電事業者に発注する予定。そのほか、韓国水力原子力が120MW、東西発電が60MW、SK建設が20MWと、相次いで燃料電池発電所の建設を計画している。

課題はあるが成長は止まらない

 韓国における燃料電池発電所の設置容量が増えている理由は、RPSの履行が有利であるためだ。すでに経済性を確保したといわれる風力発電事業の許認可が容易ではないなか、燃料電池が対案として浮上した。

 また、燃料電池の再生可能エネルギー供給認定書(REC)の加重値が高いのも、設置容量増加の要因である。RECは実際供給容量に再生可能エネルギー源別の加重値をかけた量で発給される。


 燃料電池の設置価格は依然として高いが、下落速度は速い。燃料電池発電の設置価格は10年にkWあたり1000万ウォン水準であったが、14年8月には同400万ウォン(約42万円)まで下落した。最近、ポスコエネルギーが燃料電池セル工場を着工し、コア部品の国産化による追加的な価格競争力アップが予想されている。

 しかし、韓国で燃料電池の普及がさらに活性化するためには、さらなる経済性の向上が不可欠と指摘されている。現状で韓国国内の住宅用1kW級製品の場合、月間消費電力600kWh強の家屋に設置すると、投資費用を回収するのに3年かかる。月間500kWh強の電気を使用する家屋が全体の1%水準であることから、設置に踏み切る家庭は多くないのが現状だ。

 韓国燃料電池市場は、様々な課題を抱えながらも、成長の勢いは止まらない見通しだ。大手企業の参入による規模的経済の実現とともに、RPSなどといった政府政策も後押ししているからだ。

半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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