電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第101回

長崎をぶらぶらすれば脱重厚長大のウェーブに突き当たる


~半導体レーザー/LEDで実現した非破壊糖度計の技術科~

2014/9/19

 『長崎ぶらぶら節』という小説が直木賞を取ったことがあった。作者は作詞家としてすでに名を成していた、なかにし礼である。長崎・佐世保は、今や大作家の領域に入りつつある村上龍を生み出した街であり、芥川賞を取った『限りなく透明に近いブルー』を初めて読んだ時には、何とスゴイ男が現れたな、という感があった。若い人たちに人気のある作家、吉田修一もまた長崎の生まれである。

 長崎は江戸時代にあって鎖国した日本が唯一、外国に開いた窓口であった。街を歩けば何でもチャンポンで、わからん(和・華・蘭と当て字を書く)文化が残っているところである。
 ものづくりを担う2次産業の比率は23.8%と低いが、三菱重工業、佐世保重工業をコアにした造船業の盛んなところであり、製造業の比重はやはり重厚長大にあるといってよいだろう。ただし、半導体産業もしっかりと根づいているところであり、世界トップシェアのCMOSセンサーを量産するソニー長崎、独自のアナログ技術で伸びてきたイサハヤ電子なども頑張っている。

 「3億7000万円強を投入したものづくり試作加工支援センターが稼働したことで、長崎県下の企業の考えが変わりつつある。これまでの重厚長大のカルチャーを活かしつつも、パワーエレクトロニクス、光応用技術などへの新展開のウェーブが起こってきた」

 こうコメントするのは長崎県工業技術センターの担当者である。実ビジネスに直結する研究成果こそ重要と考えているようだ。

 長崎県工業技術センターは、長崎空港に近い大村市にあり、総勢は38人(うち研究員は25名)、しかしてドクターはこのうち17人を占めるという。平成26年度の技術開発研究として注目されるのは、経済産業省・戦略的基盤技術高度化支援事業で取り組む「モバイル機器の小型高性能化に対応したドライエッチング加工を用いた小型水晶振動子の製作技術の開発」(九州電通ほかとの共同研究)、「家庭用コンセントから高速充電可能なデジタルワンコンバータ方式によるEV用小型充電器の開発」(イサハヤ電子ほかとの共同研究)などがある。

 すでに実用化され年間100台(累計400台)は出荷している、というコンパクトな携帯非破壊糖度計の技術にも驚かされた。これは、りんご、桃、柿、マンゴーなどの果実の甘さを外から全く手を触れない状態で計測できるものであり、画期的なことは、これまで5kgと重かった計測器をわずか200gのコンパクト型にしたことなのだ。さらに、従来品は1台100万円もしていたが、長崎県工業技術センターとメカトロニクス社(佐世保市)が共同開発したこの優れものは、何と1台18万円(税抜)と超廉価なのだ。

超コンパクト・軽量の非破壊糖度計
超コンパクト・軽量の非破壊糖度計
 この携帯非破壊糖度計を実現したコア技術には、長崎県工業技術センターで発明されたTFDRS法と呼ばれる画期的な光計測技術がある。従来、何百種類もの波長の光を用いて測定していた果実の糖度を数種類のみの波長の光で可能とした。これにより、発光ダイオードを活用した小型の非破壊糖度計が実現した。この技術を横展開すれば、採血なしに人間の体の分析も可能であると長崎県工業技術センターでは考えており、実に注目に値する開発だと評価されよう。
 その他にも「消防車両用LED埋め込みアルミバーシャッターの開発」も共同開発しており、バッテリーの消耗が少なく、薄型で広い照射範囲を実現できることが特徴だ。要するに夜間操作性が大幅に改善する。

 さて、これからも時々は長崎をぶらぶらして面白いことをやっている連中を発掘し、記事を書きなぐろうと思い定め、長崎中華街の福建料理を食べに出かけたのであった。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索