8月末に青森県下をサーキットする機会に恵まれた。主に青森、下北、三戸、八戸などで活躍する企業の皆さんと討論することもできた。感想を一言で言えば、かなりのメーカーが工場拡張を実行中または計画中ということであり、しかして一方で、人がすぐには集まりにくくなっている、との感想が多かったように思う。東北エリアにおいても、人手不足が目立ち始めたことは、ニッポンのモノづくりが明確に上昇気流に入ったことを意味するのだろう。
「先ごろ新工場建設に踏み切った。ありがたいことにフル操業が続いているが、第2期および第3期の拡張計画もある。しかしながら、ボトルネックは人手不足が少し顕在化してきたことだ」
こう語るのは、セイコーエプソン系列のエプソンアトミックスの赤羽史明社長である。同社の作る製品は、アナログ的モノづくりを重視しており、外国勢ではなかなかできないものだ。海外への知財権流出リスクを取らないためにも、国内工場重視を貫いている。
長野県飯田に拠点を持つ電子部品メーカーである多摩川精機もまた、八戸エリアで子会社を含めた量産の全面展開に注力している。車載向けの角度センサーが主力であるが、八戸に進出して以降、売り上げは数倍となり、4工場体制をとり、増産投資が続くという。こちらもまたどこかで新工場建設を予定するのだ。
「八戸にはJX日鉱日石エネルギーが500億円を投じる新たなLNGターミナルが来春にも完成する。おかげさまで当社が扱うタンカーはフル操業であり、3年余りの受注残を抱えている。今後、米国産のシェールガスが入ってくれば、さらに引き合いラッシュとなるだろう」
力強くこう語るのは北日本造船の二部和久取締役である。ちなみに八戸ターミナルは、14万kLを2基建設するものであり、北東北、道東に天然ガス・LNGを供給する役割を担う。240万世帯1年分にあたる都市ガスが供給されるのだ。
同じく重厚長大の八戸精錬の吾妻伸一社長もまた、生産は拡大しフル操業と答えているが、同社の製造する亜鉛と鉛は90%が自動車バッテリー向けであるからして、充分にうなずけるところだ。本社を三重に置き、航空機部品、新幹線トンネル補修などを手がける南条製作所東北工場の総務課課長の平川留美子氏は、次のように語る。
「三重の本社においては新工場建設のために敷地を増やしている。こちらの東北工場においても新工場建設計画はある。今後も拡張および雇用拡大に努力していきたい」
八戸エリアで指折りのIT企業であるアルバック東北は、新たな機軸は自動車産業にあり、と考えているようだ。このカンパニーは液晶製造のための真空装置がメーンであるが、最近ではハイブリッドカーのモーター磁石を作る機械の分野に踏み込んでいる。さらに車関連ではフィルムコンデンサー、パワーデバイスなどに関連する装置などの開発や量産が続いている。
一方で、ヤフーの八戸センターはすでに250人のスタッフを揃え、さらなる雇用拡大も検討しているが、人材不足にはなっていないと認識しているようだ。いわゆるウェブを使ったマーケット支援やコールセンターを手がけるカンパニーは、ここに来て青森エリアで急増している。ノーザンライツ、サラウンド、リゲイン、テルウェル、ウォーターワン、ブレイジング、ジョルダンなど、IT系ソフト会社は青森の地にあっても次々と誕生している。こうしたベンチャー系の役員に聞いたところ、人手はかなりキッチリと確保できるという感想が多かった。
やはり若者たちはかっこいいIT系がお好みなのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。