商業施設新聞
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No.472

感覚を研ぎ澄ませ!


高橋 直也

2014/9/9

 聞いたところによると、ミスターは小学生に野球を教える際、こう言ったそうだ。

「スーっとくるだろ?グッと構えるだろ?ブァァァアアっと打つんだ!」

 さらに、スランプにあえぐバッターと電話でこんな会話をしたらしい。

ミスター「いいか!ブゥゥウンと打つんだよ!」
バッター「ブーン、ですか」
ミスター「違う違う。ブゥゥウンだよ!」

 本当に言ったかは不明だが、いかにもミスターが言いそうな御言葉である。決して「体の前に壁を意識して、1、2の3でタイミングを取り、体を開かず……」など理論立った説明はしない。要は感覚なのだ。そして最近、商業施設業界に伝わる感覚を試される言葉を知った。「シズル感」だ。

 初めてこの言葉を聞いたときは何を言っているのか分からなかった。某外食企業の社長に焼き立てのステーキを見せられて「どうすかー!この肉のシズル感!タマらんでしょー!」と言われたが、なんのことかサッパリ。とりあえず愛想笑いをして、話を反らした。

 オフィスに戻って意味を調べたところ、いわゆるひとつの「美味しそう」という意味らしい。しかしどうやら、どんなに美味しくてもクッキーには使わない。スルメにも使わない。パンケーキにも多分使わない。でもステーキには使う。刺身には使うはず。肉汁など水分を含んでいないとイカンらしい。さらに出来たてで美味しそうな感じを「シズル感がある」と言うようだ。

 「旨そうって言えばいいじゃん。誰だよ考えた人」と思ったが、この言葉、使いこなせればかなり便利であると気づいた。外食店を取材する際、商品を見て「美味しそうですねー」と言うことがある。いくら本当に美味しそうでもセリフがあたり前すぎて、「社交辞令と思われているかも」と感じることがあった。だがグルメ番組のレポーターのような気の利いた言葉は出てこないし、日常生活で「外はフワフワなのに中はサックサクですね!」と言うと逆にウサン臭い。そんなときはとりあえずシズル感が役に立つ。

店内調理の出来立て弁当。いわゆるひとつのシズってます
店内調理の出来立て弁当。
いわゆるひとつのシズってます
 出来立てで水分があればシズっていることになるらしいので「いやー社長!シズル感が最高っスねー!」と言えばなんとなく業界人風の答えになる。社交辞令っぽさも多少は薄れる。これからはとりあえずシズル感である。

 ただし、この言葉には問題がある。先日、ある外食企業を取材がてら提供するメニューを食べさせてもらった。「シズル感がでてますねー!」と使ってみたら「え?なんです?」と聞き返された。あまり浸透していない言葉らしい。

 しかし私はめげない。失敗は成功のマザーだ。使い続ければブァァァアアっと広まっていくに違いない。
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