「年齢性別に関係なく、生活や労働を行える機会を提供し、パワーバリアフリー社会を実現するために弊社は誕生した。とりわけ、作業員が高齢化している農作業支援には、かなりの活躍を見せる製品である。また、東日本大震災の際には福島第1で当社の製品が使われた。災害対応・耐放射線防護にも役立っているのだ」
眼を輝かせ、こう語るのはアクティブリンク(株)(奈良市左京6-5-2、ならやま研究パーク内、Tel.0742-71-1878)代表取締役社長の藤本弘道氏である。藤本氏は滋賀銀行が定期的に開催しているビジネスフォーラムの「サタデー起業塾」(7月12日)のセミナー分科会で、同社の方向性について生き生きと語ってくれた。
藤本氏は1970年7月に大阪府で生まれ奈良で育った。大阪大学大学院を修了し、松下電器産業(現パナソニック)に入社する。2003年6月には社内ベンチャー制度に応募し、アクティブリンク(株)設立を果たすのだ。当時、松下は社内ベンチャーを100社作ると意気盛んであったが、実際には30社しか作れなかった。そして現在残っているのは4社のみであり、アクティブリンクはリーマンショックなどで揺れ動く状勢の中で生き残ってきたのだ。
「アクティブリンクは世界初のパワードスーツ専業企業である。つまりは通常の人体に手足の活動を補助する機能を付け、人体の持つパワーを徹底的にアシストする機器なのだ。これまでにリハビリ支援スーツ、パワーエフェクター、パワーフィンガー、パワーローダーなどを開発してきた。モノづくりの現場で使われていくことを目指すとともに、農作業支援や災害救助、さらには医療福祉などにも役立てていきたい」(藤本社長)
医療向けロボットで世界的に著名になってきたのは、サイバーダインというカンパニーがあるが、アクティブリンクの場合はむしろ非医療分野の方に強いベンチャーなのだ。農作業向けに開発した製品は、単三電池4本で2週間も使える優れものであり、これまでに200台を出荷している。こうした力仕事をアシストするスーツについては、大手メーカーのクボタがすでに販売に踏み切っているのだ。歩行性能に優れたハイブリッド型パワードスーツ(愛称は忍者)は、能動的な歩行のアシスト制御と受動歩行制御を両立させている。最高歩行速度は12km/hと非常に速く、使用時間も従来比で約3倍に引き上げた。今後は傾斜地で作業効率が求められる林業や農業を中心に用途開発・実証試験に注力していくという。
「資本金は2億2400万円となっている。従業員は現状で10人。2013年3月には三井物産と業務提携したことで販売ルートが大きく拡大した。ここ1~2年間は受託開発が中心になってきたが、2015年度はパワードスーツを1000台出荷するべく準備を整えている」(藤本社長)
ちなみに、重要部品のサーボモーターは安川電機のものを使っており、パワーローダーは22個を搭載している。バッテリーはパナソニック製を搭載し、メーンのマイコンはルネサス エレクトロニクスのH8を搭載している。全体の製造そのものは外注しており、現状では知財権を活用したファブレスベンチャーを目指しているのだ。今後の方向性について抱負を藤本社長にうかがったところ、次のような明確な答えが返ってきた。
「パナソニックから誕生したベンチャーであることは強く認識している。厳しい状況の中で生き残ってきた。様々なアプリを今後も追求していく。フィリピンの水産会社からマグロの一本釣りをパワー支援するスーツの引き合いをいただいたが、残念ながらコストが合わなかった。しかしながら、特に日本国内は労働力不足が叫ばれており、建設、土木、農業、さらには物流や工場などにおいて通常の人の2~3倍のパワーを持つ労働力が求められていくだろう。我々の会社の使命は、日本の産業活性化のために、この労働力不足を解消するパワードスーツを徹底的に追求することだと思っている」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。