電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第91回

ニッポンの有機ELの最後のトリデ「エイソン」が立ち上がった!!


~5000カンデラ、寿命1万8000時間を実証検証し商業量産準備~

2014/7/11

 有機ELといえば、こと日本勢については全くといってよいほど良い話題はない。ソニーとパナソニックの共同開発はストップしてしまったし、出光興産もこの分野からは(素材はともかくデバイスとしては)1歩も2歩も腰を引いたかたちになってしまっている。期待の熊本のベンチャー、イーエルテクノは破綻してしまったし、カネカがテコ入れした青森のカンパニーも立ち上がってこない。量産で先行するサムスンの背中は遠くなるばかりだ。わずかにジャパンディスプレイの「将来は有機ELに踏み込む」というアナウンスがあるくらいだ。

期待の有機ELベンチャー「エイソン」はルネサス滋賀工場の中に拠点を構える
期待の有機ELベンチャー「エイソン」は
ルネサス滋賀工場の中に拠点を構える
 ところが、である。コツコツと技術を積み上げていた連中は、2013年7月にルネサス滋賀工場の一角に開発センターとマザー工場を設けることを決定し、今月まで少人数で耐え忍び成果の出る日を待ってきた。照明用有機ELとして5000カンデラ、寿命1万8000時間という成果は、環境省の補助事業として開花したものであり、生産の実証実験も完了した。いわば、公的なお墨付きをもらった有機ELが世に出る日が来たのだ。この注目の有機ELベンチャーの名前はエイソンテクノロジー(本社・横浜市)、これを率いる代表取締役社長の名は中川幸和という。

 「エイソン型有機ELの最大の特徴は、電荷発生層を介して発光素子を多段積層するという技術を独自に立ち上げたことだ。また、拡散反射技術を用いることで、光の干渉が起きにくいという成果を生み出した。従来型の有機ELは、PN接続または導電性酸化物によるものだが、エイソン型有機ELはデバイス構造が異なり、何段でも多く積層できる。中間接続層のCGLがすべて有機物であることも奏功している」(中川幸和社長)

 ルネサス滋賀に完成させたエイソン型有機EL製造装置は、山口の長州産業が創り上げた優れものだ。1チャンバーで素子成膜可能であり、72mmパネルサイズで年間4000枚の生産が可能。2016年に予想される商業量産時には年間35万枚に引き上げる計画であり、具体的な設備投資計画も策定中だ。

 ただ問題はコストであり、今のところは4万円/15cmパネルであるからして、一般照明に応用するにはまだまだ厳しい。当面は医療向け照明、美術館の照明、スタジオ舞台などの照明を狙っていく考えであり、将来ターゲットとしては自動車向けも充分に考えているという。エイソンにあって取締役・開発本部長を務める井口弘文氏は将来への期待を込めてこう語る。
 「中長期的な目標としては、100ルーメン、3万時間の寿命を目指し、技術の確立とコストダウンに全力を挙げていく。現在は使っていないが、リン光を材料にしたものも研究している。また、今話題の九州大学の安達教授が開発した新材料は、高効率という点で大いに興味がある」

 エイソンの資本金はここに来て一気に増資され、4億3282万円まで引き上がっている。つい直近では、専門商社のキスコからも出資を仰ぎ、キスコの販売ルートにも期待がかかるとしている。また、一番初めに出資してくれた伊藤忠商事、さらには茶谷産業などの有力カンパニーの販売ルートを充分に活用していく考えだ。

 「エイソンの有機ELのターゲットは非常にはっきりしている。つまりは照明用に特化し、ディスプレーは全く考えていない。小さく、暗く、高い有機ELとはもうおさらばだ。エイソンは全力を挙げて大面積、長寿命、低価格を実現する有機EL光源素子の開発・量産を目指す。また、ニッポンの有機ELは死んでいないことを証明してみせる」(中川幸和社長)

 梅雨の晴れ間で蒸し暑い滋賀の石山駅からエイソンのいるルネサス滋賀工場を見上げた時、30年前にここを訪れたことをふいに思い出した。当時は関西日本電気・大津工場といったが、確かSRAMなどのメモリーを作っていた記憶がある。もちろん、当時は日本電気(現在のルネサス)が半導体の世界チャンピオンであった。今も残る思い出のこの滋賀工場で、エイソンが世界を相手に有機ELで戦っている。そう考えると、胸の中に拡がってくるものがあり、琵琶湖の見える小さな居酒屋で一杯やって帰ろうと思い定めた。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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