2004年のこと、イスラエルにAmimonという不思議な名前の半導体ベンチャーが誕生した。ビデオモデム用ベースバンドチップを手がけるファブレスメーカーとしてめきめき頭角を現してきた。同社は、特に5GHzギガヘルツ帯でフルHDビデオを非圧縮、実質遅延ゼロで無線伝送することに成功しているのだ。
Amimon日本法人の
田社長(左)と茅島マネージャー(右)
日本法人であるAmimonジャパン(東京都品川区東五反田1-10-7、AIOS五反田ビル701号、Tel.03-3444-4305)の日本代表を務める田溶吉氏は、日本市場はやはり映像機器においては1歩も2歩も世界の先を行くとして次のように語るのだ。
「デジタルビデオカメラ、各種放送機器、さらには今後の4Kおよび8Kのハイビジョンテレビなどにおける日本企業の存在感はやはり圧倒的だ。こうした分野の産業機器の組み込みについては日本が世界でもトップの市場なのだ。また内視鏡などの医療機器においても多くの無線関連チップが必要になるが、当社の技術は非常に多く使われている」
Amimonの向かうべき市場は高品質ワイヤレスビデオ、内視鏡、各種組み込み・装置、双方向対話型ディスプレー、会議室や教室などのモニター装置、そしてプロ向けのビデオカメラなのだ。同社の技術のすごいところは、例えば無人飛行体や無人車両を使っての環境調査や災害地での調査で威力を発揮する。驚くなかれ、最大2kmの飛距離を達成するモジュールなのだ。しかも1ミリ秒以下の低遅延時間であり、HDの高画質を維持する。危険区域から離れて安全な場所からの調査は、地震をはじめとする各種の災害ではいやがうえにも必要性が増している。そこにAmimonの技術は大きく貢献するのだ。日本法人のセールマネージャーを務める茅島吉幸氏は、放送関連や映画関連にも実績があるとして次のように語る。
「ロケ現場での簡単で迅速な設置ができることが強みだ。またスポーツ関連ライブでは、自由なカメラワークを使える。また、報道現場では中継車などから離れての自由なライブ取材活動ができる。こうした環境や放送で培った技術は、横展開できると考えている。橋の老朽化の検査、トンネルの環境検査など無人アプリを必要とする分野は膨大にあるのだ」
今や高品質ワイヤレスHDビデオ接続という分野においては、Amimonは世界のリーディングカンパニーとなっている、といってよいだろう。今後は、人のいない鉄道、人のいない交通手段などにも応用範囲は広がっていくのだ。
「日本法人の売り上げ計画としては、まずは2.5億円を達成し、次のステップで5.0億円に載せていく考えがある。日本においては5GHzギガヘルツ帯のフルHD市場を狙っており、チップを組み込んだモジュールで2Kは対応済。4Kも将来は達成できると見ている」(田 日本代表)
Amimonの開発拠点はイスラエルにあり、日本、台湾、中国にそれぞれ拠点を持っている。セールスプロモーションとしては、特に日本市場を重視しており、まだまだ日本の映像技術が世界を引っ張っていることがうかがえて、楽しい気持ちになった。また、日本はとりわけ医療産業革命の先頭を走っており、Amimonの技術は手術室における無線通信においても多くの活躍を見せるに違いない、と思い定めた。
今や新たな社会インフラの形成として、インターネットをすべてのものにつなぐというM2Mの時代が確実に見えてきた。そうした中にあって、Amimonの持つ技術の凄みはひときわ光を放つことになるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。