電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第88回

エレクトロニクス設計インフラに革新の風を巻き起こす


~注目ベンチャー企業のモーデックはアナログコアに一大飛躍~

2014/6/13

(株)モーデック 嶌末政憲(しますえまさのり)社長
(株)モーデック 
嶌末政憲(しますえまさのり)社長
 熊本大学工学部を出たその男は、富士通に仕事を得て川崎で勤務した。5年間は光通信中継器の回路のハード設計に明け暮れた。これは何と面白い、と考えた男は、横河ヒューレットパッカードの測定器の技術サポート、回路シミュレーションなどを行い、これまた5年の歳月を過ごすのだ。ハード回路とコンサルティングの両方の領域で年間10億円は稼ぐ、という勢いであったが、2002年時点で独立を考え、ベンチャー企業を立ち上げる。そのカンパニーの名前はモーデックという。そしてまた、これを立ち上げ、代表取締役となったその男の名は嶌末政憲(しますえまさのり)という。

 「モーデックという社名はモデリング、デザイン、テクノロジーを組み合わせたカンパニーを意味するものだ。最先端のデバイスモデリング技術を基軸にしてエレクトロニクス設計インフラに大きな革新の風を起こしたい。固有の技術にはかなりの自信を持っている」(嶌末社長)

 ちなみに嶌末社長の父親は、地図で知られるゼンリンの創立者の1人であった。父の背中を見ていた嶌末氏は、やはり先端技術で行きたいと考え、10年以上の経験を経てベンチャーを興すに至る。まずは半導体の回路設計のコンサルタントからスタートし、設計効率の向上、CADによるスパイスモデルの構築など、アナログ中心にサポートしていく。有名なソニーのプレイステーション3のモデリングシステムを請け負うなどして地歩を固めていくのだ。

 現在のメーン事業もやはりモデリングがコアとなっている。高精度・最先端モデルを利用したミリ波帯までのオンウエハーデバイス、オンボード電子部品向けスパイスモデルを得意としており、パラメーター抽出も行う。また、回路設計支援としては、電磁界、ノイズ解析における測定、ツールコンサルティングなどのトータルサービスもこなしている。あわせて、保有する測定器材を駆使して、特殊な分野の測定にも対応している。

 最近ではエレクトロニクス製品の多様化がよりいっそう進み、一方で高付加価値製品をより早く市場投入する必要性がますます高まっている。その必然性を満たすためには、回路設計段階で効果的なシミュレーションを行い、開発期間の短縮と設計精度の向上を図ることが必須事項なのだ。同社はこうした時代に対応し、高精度のシミュレーションモデルの必要性に対応する技術に磨きをかけている、といえよう。

 「モデリングならモーデック、といわれるような世界のリーディングカンパニーになりたい。5年後をめどにIPO取得も考えている。中長期的には100億円の売り上げも充分に想定できると思う」(嶌末社長)

 最近ではメディカル、車載、さらには民生にも狙いを定め、ユーザーの範囲を広げている。クラウドコンピューティングに対応したシミュレーションを行い、世界に通用するモデリングを作り上げていくのが同社の目標なのだ。日本国内におけるシミュレーションは全体の15%くらいであるが、東芝、パナソニック、ローム、トヨタ、デンソー、富士電機、ルネサスなど多くの有力メーカーと取引実績がある。もちろん、海外にもスモールオフィスを設け、ワールドワイドな展開を心がけていくという。

 この注目すべき半導体ベンチャーを立ち上げた嶌末社長にエレクトロニクスが後退する日本の可能性について伺ったところ、次のような答えが返ってきた。

 「第2次世界大戦の焼け跡から立ち上がり、目覚ましい戦後復興を成し遂げてきた先達に対し、まずは敬意の念を表明したい。日本民族のDNAは間違いなく世界に比して優秀だと思う。日本のエレクトロニクスもある段階で必ず復興してくると信じている。ただし、仕事をしていていつも思うことは、なかなか本音を言わない人が多いということだ。また、良くないところを冷たく見つめる眼が少ない。そしてまた、すべて後ろに下がって考え行動するのが美徳だと思っている。ところが、グローバリゼーションの時代では、これがなかなか世界に通用しないことが多いのだ」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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