電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第87回

熊本にある女性中心の軍団「空間アートシール」に注目!!


~一人で営業活動、工場生産、品質管理、事務までこなすスーパーレディーたち~

2014/6/6

 九州の肥後熊本といえば、火の国である。男たちは意地っ張りで一直線の人たちが多く、「肥後もっこす」と呼ばれている。これに対し、「薩摩おごじょ」というものがあり、要するに鹿児島の女は凛々しく、賢く、たくましいという意味なのだ。

 それでは、肥後熊本の女とはいかがなものだろうか。筆者の年代では、水前寺清子とか八代亜紀などが思い浮かび、男っぽいが、そのくせ変に色気があるという印象があるのだ。それなら、石川さゆりやスザンヌはそうしたジャンルに入るのかと知人に言われて考え込んでしまった。ちなみに福田沙紀ちゃんもかわいいよね、とつぶやいたら「その歳で見下げ果てた奴だ」と言われてしまった。

岩戸久美さん(左)と湯原久美さん(右)
岩戸久美さん(左)と湯原久美さん(右)
 それはさておき、肥後熊本に本社を置くベンチャー企業、空間アートシールはまさに女の城ともいうべきカンパニーである。何しろ、全社員20人のうち女性が8割の16人を占めている。この会社にあって男性たちは非常に肩身の狭い存在なのかもしれない。同社のスタッフである湯原久美さんはこうのたまうのだ。
 「女性同士で仕事をするのはとってもやりやすいです。女としての悩み、喜び、生きがいをともに分かり合っているから強い団結力が生まれます。私たちの間では隠し事はなく、お互いに思ったことをさらけ出します」

 空間アートシールは1982年に工藤ゴム工業としてスタートし、一貫して半導体製造装置の関連部品であるパッキンとシール材全般の加工製造をメーンに事業を展開してきた。コーター/デベロッパー、フラットパネルディスプレー、洗浄装置などに使われる特殊パッキンおよびそれらに関連する金属フレームに関わるゴムやスポンジ加工で多くの実績を積み重ねてきた。同社のスタッフである岩戸久美さんは、事業モデルの特徴について次のように語るのだ。

 「多品種少量生産が特徴です。カスタマイズされた製品加工にはかなりの自信を持っており、扱う点数は実に数千種類です。ゴム製品は温度管理、湿度管理が難しく、扱うのに決してやさしい製品ではありません。全社的に品質重視、納期厳守を貫いており、そのことでお客様の評価を得てきました」

 現状では、売り上げの約50%を半導体関連が占めており、次に多いのは工場内作業部品・治具となっている。最近では、医療機器、計測関連、食品加工、車載、太陽電池などにも対応している。

 ところで、この女性軍団の仕事ぶりは実にサプライズといってよいだろう。湯原さんにしても岩戸さんにしても、特別に決められた部署は現実的にはないのだ。注文を取って回る時には営業活動に徹底的に注力する。九州圏内に顧客は多いが、広島までなら車でセールスに回る。東京や大阪も飛び回る。生産現場が忙しくなれば、工場服を着てラインに入って生産活動に従事する。さらに、工程内検査や出荷前検査など品質管理もやってのけてしまう。さらに場合によっては事務処理、経理まで手を出す。一人で三役四役をこなすのだ。いわば、多能工ともいうべき女性軍団は調査活動やマーケット情報の収集までやるというのだから恐れ入ってしまう。

 「あうんの呼吸でみんなは今何が忙しく、どこに集中しなければならないかということが良く分かっています。アットホームな会社だからお互いに気心が知れているのです。男の世界ではよく一致団結してことに当たると言われますが、いざとなった時の女性の団結力は男性に引けをとらないと私は思っています」(岩戸さん)

 この会社を引っ張る二人の久美さんは、良く聞いてみたところ、高校の同級生であったという。高校時代から非常に仲が良く、その関係が会社に入ってもずっと続いている。
 もっとも、趣味や趣向だけは異なる。岩戸さんのストレス解消手段はお酒であり、本が大好きで落合信彦のノンフィクションものなど以外と硬派な読み手。最近読んだ本で良かったものは?と伺ったところ、「こころから感動する会社」(著者・泉谷渉)であると聞いて、筆者は思わず抱きしめようとしたが、周りの人間に止められてしまった。一方の湯原さんはあまり本は読まない。好きなのは映画だ。英語は非常に堪能であり、字幕なしで観れるというのだから驚きだ。

 この二人の久美さんにこの仕事を年寄りになっても続ける考えはあるのかと聞いたところ、驚くべき答えが返ってきた。

 「仕事は一生続けたいです。たとえ、何かのことで大金持ちになっても続けます。結婚、育児と共存して続けます。それは、仕事そのものが好きというより、一緒に働く仲間が大好きだからです。仲間と離れることは絶対に嫌です。いつでも一緒にいないとつながらない」

 会社コミュニケーションのない時代にあって、この二人の女性の発言に驚いたのは筆者だけであろうか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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