電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第86回

日本初の農業職業訓練校が長野県松本に開設、国内100カ所に展開


~LED未来型先端野菜栽培など5科目で45歳未満対象に訓練生募集~

2014/5/30

 2100年には世界の人口が100億人を超えるといわれており、食糧難の時代が確実にやってくることが懸念されている。わが国においては、現状の1億2700万人から約7000万人に人口がシュリンクし、とりわけ食糧事情については多くの問題が山積している。何しろ農家の高齢化は加速度的に進んでおり、農業の担い手が圧倒的に不足している。

 ところで、農業問題を捉えるときに、あくまでも第1次産業としてみる向きが多く、高付加価値産業ではないという認識を持つ人が多い。日本政府はこれまで、自動車、エレクトロニクス、新素材などの技術大国、工業立国を徹底的に国内外にアピールしてきたわけであり、どうしても農業に対する関心は薄かった。

 ところが、農業問題は単なる食糧事情の問題ではない。わが国の食品自給率は40%以下であり、米麦などの主要穀物については十数%しかないというお寒い状況がある。大きな国際紛争や大戦争が勃発した場合に、日本がまず困ることは、何といっても食料品と石油、天然ガスなどのエネルギーなのだ。食品自給率とエネルギー需給率がほぼ100%であれば、国際紛争に積極的に加わらず自主独立の方針を貫くことができる。しかして、現状の有様ではどうにもならない。つまり食糧問題は国政政治や軍事問題に直結する重要な課題なのだ。

クラインガルテン藤ヶ原農業職業訓練校
クラインガルテン藤ヶ原農業職業訓練校
 こうした状況下で長野県松本市にニッポン第1号の農業職業訓練校が開校されることになった。もちろん、基本コンセプトは将来に向けての農業従事者の育成にあるが、荒廃地や遊休農地の解消という理由も見逃せないところだ。また、危機管理上からの食料安定供給を中長期的に整備していくという目的も、この計画には含まれている。松本に開設されるクラインガルテン藤ヶ原農業職業訓練校の企画広報部長の任にある塚平一成氏は、今回の計画の概要について次のように語る。
 「農業のスペシャリストになるための園芸サービス系・園芸科を2年制、定員20名でスタートさせる。りんご、ぶどう、スイカ、野菜、さらにはLED未来型先端野菜栽培の5コースとなる。訓練生の募集期限は6月15日。全寮制で学習することになるが、1人30m²の大きさの独立した棟屋に住むことができ、寮費は無料、食費は3食無料支給、学費もかからない」

 募集対象の年齢は15歳以上~45歳未満までとなっており、卒業後に独立し自営就農する場合には、年間150万円の給付金を最長5年間にわたって受け取ることができる。ただし当たり前のことであるが、この訓練校を途中でやめた場合にはあらゆる特典がなくなる。卒業後1年以内での就農、最低2年間の就農が義務づけられる。農家での実習が約7割、教室での学習が約3割というカリキュラムとなっている。この事業を推進するNPO法人産巣日会理事長の藤井公貴氏は、地元紙の中でこう語っている。
 「何としても農業を活性化させるうねりを作りたい。農業に対する思いが変わったのは、平成23年3月の東日本大震災被災地の様子を報道で見たときだ。おにぎり1つが手に入らない食糧難に問題を抱える日本農業の縮図を見て、農業を支える人材を育てる必要性を感じた。震災に伴う原発事故で食品の安全性に対する危機感が高まったことも大きい」

 長野県松本といえば、パワー半導体のIGBTで世界トップを狙っている富士電機の拠点である松本工場がある。こうした地元の半導体企業やIT企業の協力も得て、この全国初の農業職業訓練校のインフラを作り、まずは長野県下に5カ所を開設し、将来的には全国展開し100カ所に持っていく構想だ。また、富士電機とつながりの深い富士通の会津若松工場はLED農場の工場で最先行するなど技術の蓄積を重ねており、こうした関係の方に講師をお願いしたり、また県外研修なども依頼したいとの思いもあるようだ。

 企画広報を担当する塚平一成氏は、当面の訓練生のターゲットエリアとして東京・神奈川での集中的な募集活動を行っている。リニア新幹線が通れば、飯田などのエリアと直結する相模原市や松本市とは姉妹都市となっている藤沢市、さらには横浜市および東京中心部の各地を駆け回っているのだ。

 「わが国における耕作放棄地は実に38万haとなり、これは埼玉県の面積に匹敵する。また、若者の失業やニートなど生活保護者も216万人といわれ、社会問題化している。農業復活ののろしをあげて、横たわる多くの問題を解決していきたい。特に期待しているのは、自立する女性の農業への参入だ」(塚平氏)

 なお、全国農業職業訓練校信州松本モデル事業の問い合わせ先は下記のとおり。
 TEL : 0263-88-7870 Mail : nougyoukunrenkou@gmail.com


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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