100年以上続くゼネコンは
寺社建築から始まっている企業が多い
「世界の人たちがよく知っているように、日本人の長寿は実にサプライズだ。しかしながら、生命という点において長生きであるばかりでなく、日本の企業もまた、とても長生きなのだ。ギネスブックにも記録されているが、大阪にある金剛組という建設会社は実に創業以来、1400年の歴史を持ち、今も存在している。この会社は世界遺産の奈良の法隆寺を作った会社であり、実に西暦600年ごろに誕生した会社なのだ」(大手証券アナリスト)
さて、よく知られているように、日本人の平均寿命は世界的に見てもトップ水準にある。2013年7月の調査発表によれば、女性は86.41歳で世界1位。男性は79.94歳で世界5位であるが、これは東日本大震災による大量の死亡者が出たことが影響している。
ところで、長寿王国ニッポンは企業においても、とんでもない長寿を誇る会社が数多いのだ。筆者はかつて、有名な住友グループの企業の1つである住友金属鉱山に取材に出かけたことがある。この会社は半導体で使う重要材料の1つであるリードフレームにおいては、世界トップシェアを持ち、技術力も抜群に高い。今後の設備投資動向を詳しく伺ったうえで、アフターのお茶を飲みながら、同社の幹部にこういう質問をぶつけてみた。
「住友金属鉱山という会社はいつごろに誕生したのですか」
「たぶん、天正18年ぐらいだろう」
「はぁ~。天正18年って言われても、いつごろかよく分からないのですが」
「それでは教えてやろう。天正18年というのは戦国時代の豊臣秀吉が小田原の北条氏を討ちに行ったころのことを言う」
「ちょっと待って下さい。ということは御社の誕生は1600年ごろということになりますね」
「そのとおりだ。今日まで400年間続いている会社なのだ」
筆者は思わず飲んでいるお茶をこぼしそうになった。住友金属鉱山という会社は気の遠くなるような400年間を戦い抜いて、今日まで生き残り、しかも最先端の半導体材料においてトップシェアを持つというのだから、これが驚きでなくて何であろう。実のところ、よく調べてみれば住友金属鉱山のような会社は日本に山ほどあることがよく分かってきて、日本企業の長寿についての関心が強く深まってきたのだ。
その後、日本企業の長寿について、多くの取材活動を行い、この日本には100年以上も存続している会社が実に10万社もあることに気がついた。もっとも、ある程度の規模を持つ会社ということに絞れば、2万社くらいと思われるが、それにしてもこの数はダントツの世界一なのだ。5000年の歴史を持つ中国においてすら、100年企業はたったの1000社しかいない。お隣の韓国に至っては5社しかない。歴史の古いヨーロッパであっても、4000社ぐらいがいいところだろう。企業が100年続くということは、日本人が何を大切にするかという文化論につながる問題だ。目先の利益なのか。一瞬の繁栄なのか。それとも「絶対多数の絶対幸福の追求」をキーワードにするのか。
「5年や10年の短い勝負ではまどろっこい。一瞬だけ輝くことは誰にでもできるのだ。どうせなら100年かけて勝負しようじゃないか」という100年企業のメーカー幹部の放った言葉は実に強烈であった。思えば、IT産業が本格化してきた現在において、勝者は次々に変わってきた。インテルとマイクロソフトが築き上げたパソコンにおけるウィンテル支配は、今日において、すでに崩壊し始めた。数年前まで4億台もあったパソコン出荷台数はとうとう3億台まで落ち込み、今後も下落傾向が続くといわれている。
これに代わってスマートフォンやタブレットがITハードの主役になってきた。しかし、よく考えてみれば、iPhoneによってスマホの世界を切り開いたアップルは、二十数年前のパソコン戦争の時にマイクロソフトに叩きのめされたのだ。そのアップルがリベンジを果たしたと思う間もなく、韓国のサムスンがGalaxyによってアップルを打ち破った。そしてまた、こうしたハードの戦争とは別に、ITの実質的な支配者は今やネットワークのビジネスモデルの仕組みを作るカンパニーであるグーグル、アマゾン、フェイスブック、ウェイボー、バイドゥなどのカンパニーなのだ。
こうしてほんの数年のうちに、猫の目のように変わるITカンパニーの覇者の流れを見ていると、100年も200年も続く企業というのは、まさに化け物だな、と思わされてしまう。そうした長寿企業が日本に多く存在することにも驚かされる。それらは繊維、造船、鉄鋼、電機、ガラス、印刷、食料品など多岐にわたる産業分野で存在する。ここに日本の企業文化の特徴がある。
つまりは、1つの産業分野だけに傾注することなく、あらゆる産業分野で一流の技術を作り上げ、世界トップシェアを走るという考え方が日本独自の思考回路に裏打ちされている。その時々で儲かる産業だけを追うというカルチャーだけではなく、また経済原理だけを追うのではなく、独自製品を作り上げて世の中に貢献することこそが一番大切という国民的合意がある国、それがニッポンなのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。