EnOcean(エンオーシャン、独ミュンヘン)は、エネルギーハーベスティング(自己発電)を使った無線技術のリーディングカンパニーだ。小型エネルギー変換器や超低消費電力RF CMOS技術といったユニークな回路技術をベースにエンオーシャン・アライアンスを立ち上げ、ビルや家庭などの省エネ化や安心・安全のための無線技術ソリューション(スイッチ、センサー、開発キットなど)を提供する。日本でも独自の無線周波数帯(サブギガヘルツ帯)に合わせた新製品を投入する。会長&CEOのグラハム・マーティン氏に話を聞いた。
―― 会社概要から。
マーティン 当社は2001年に独シーメンスからスピンオフして設立されたエネルギーハーベスティング無線技術の草分け的存在だ。特に、08年4月には当社の技術を普及・発展させるために「エンオーシャン・アライアンス」と呼ばれるオープンコンソーシアムを立ち上げ、一気にその名を世に広めた。現在従業員は本社のあるドイツに約60人いる。
―― エンオーシャン・アライアンスとは。
マーティン 無線の国際規格としてISO/IEC14543-3-10に準拠している。アライアンスには、幹事会社として同技術を普及・推進する主要メンバーからなる「プロモーター」をはじめ、同技術の製品やサービスを提供する「正会員」と「準会員」の3グループがある。全世界で350以上の企業・団体が加盟する。拠点は米カリフォルニア州にある。日本のメンバーも数多く参加しており、プロモーターにはロームが参画する。14年3月現在で36の会社・団体が参加している。
―― 主力製品の特徴と利点について。
マーティン サブギガヘルツ帯の無線周波数を活用しているため、通信距離は30mまで可能で、住宅をはじめ商業施設やオフィスビルのオートメーション化実現のための無線通信技術として最適だ。電波の干渉の心配もいらない。特に、エナジーハーベスティング技術を採用しているため、バッテリーがいらない低消費電力が魅力だ。
エナジーハーベストには3種類の発電方法がある。1つは物理的な力を加えることで発電させるメカニカルタイプのもの。2つ目は、太陽光と蓄電機能のあるキャパシタを活用することで、暗がりや雨の日でも利用できるもの。3つ目は、温度差を利用してぺルチェ素子で発電させるもの。当社はそれぞれに対したスイッチ、センサー製品を開発済みだ。電池や配線、メンテナンスフリーで取り付けや設計も簡単である。
―― 実績は。
マーティン 世界の25万棟以上のビルや商業施設などで採用実績がある。ドイツの空港施設内やホテル、歴史的な文化財などでの外観を損なわない設置工事が容易だ。特に省エネ化では威力を発揮する。12年に導入されたハワイのホテルでは、照明で45%、空調で50%の省エネ化を実現した。
―― 日本市場にも新製品を投入しました。
マーティン 日本市場専用に928MHz帯対応の無線通信製品を開発した。通信距離は50~60mまで可能だ。NTTとも協力して開発・提供する。日本ではエネルギー問題もあるため、HEMSやBEMSを軸に展開するが、日本市場は高齢者の割合が高く、そこにビジネスチャンスが広がっている。お年寄りの見守りサービスなどにも注目している。人感センサーなどと組み合わせてベッドなどの寝具への採用も期待される。日本市場開拓のため、主要代理店として丸文と組んで、シェアを拡大したい。
―― コアデバイスの無線チップも開発している。
マーティン 当社はその主要デバイスであるDolphin(ドルフィン)チップの設計・開発を手がけるファブレス半導体メーカーの顔も持つ。無線技術を取り込んだRF CMOS回路設計技術がミソだ。今回、日本市場向けに無線モジュール各種ならびに開発キットを本格的に提供することになったが、新たに新型ドルフィンチップ(SoC)を開発し、メモリー容量の拡大やプロセスの微細化を進めた。チップの製造にはTSMCを活用している。主流は0.35μmのRF CMOSだが、最新チップには0.18μmを適用する。
―― 国内含めてアジア市場への期待は。
マーティン 自己発電無線技術に関する世界の需要は日々拡大している。当社の業績も年率3~4割の成長を達成している。現在の売上構成比は、欧州が全体の6割強、北米2割、残りがアジアだ。しかし、今後は中国ならびにアジアでの売り上げを拡大していきたい。特に、中国は昨年の北京や香港に続き、上海にもオフィスを開設した。日本でもスタッフを増員する。ドイツ本社でも積極的に前年比2割ほどマンパワーの充実を図る。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2014年5月14日号4面 掲載)