1990年代の初めころであるが、初めて台湾に取材サーキットをかけた。半導体産業が勃興してきたとは聞いてはいたが、まだそれほどのものではないとタカをくくっていた。それゆえに、台北の屋台街でしたたかに酔いしれクダを巻くばかりで、なかなか台湾半導体のメッカである新竹に行こうとはしなかった。
でも仕事で来たのだから、いくら何でもちょっとぐらいは見ておかなくちゃね、と考え新竹に向かった。そこは驚きの地であった。凄まじい勢いで工場建設が進んでおり、いずれ世界のひのき舞台に飛び出してくるのは間違いないとの確信があった。あわてて帰ってきて、我が媒体の半導体産業新聞に1面トップ記事で「昇竜台湾、恐るべし」と書いたところ、日本国内での反響は凄まじかった。
UMCグループ・ジャパン
バイスプレジデント 大塚祐一氏
さて、今日にあってUMCといえば、台湾第2のファンドリー企業としてその名を知られている。1985年には半導体企業として初めて株式上場を果たし、2000年にはニューヨークのストックエクスチェンジにも登録された名門企業なのだ。そのUMCは、2014年から台南新工場(300mmウエハー能力月産5万枚)をコアに積極投資に転じ、何とこれからの3年間で1兆円以上を投入する用意があるというのだからサプライズだといえよう。
日本市場の攻略については、ユー・エム・シー・グループ・ジャパンがこれを担当しており、ビジネス開拓部門のバイスプレジデントである大塚祐一氏は、日本が特殊なマーケットであることを前提に拡大プランをこう語るのだ。
「米国や欧州においては、今やファブレス&ファンドリーというカルチャーが広く定着してきた。ファブレスのクアルコムが世界ランキング3位におり、上位20社の顔ぶれを見てもファブレスベンチャーの数が一気に増えてきた。このファンドリーを引き受けることについては、台湾企業は多く努力してきた。UMCもその例外ではない。しかしながら、日本国内にはファブレスベンチャーが少なく、基本的には垂直統合型企業が中心だ。このため、日本マーケットに合ったプロセスの売り込みを図っている」
UMCの設備能力は8インチウエハー換算で52万4000枚に達しており、世界における従業員数は1万5000人以上となっている。300mmウエハーは台湾およびシンガポールにあり、この後に前記の台南新工場が加わってくれば、さらに設備能力は増大する。また最近ではシンガポールに特殊プロセスに特化したR&Dセンターを設立している。
「微細化プロセスへの移行についても注力している。今やUMCにおいて売り上げの50%以上が65nmなのだ。28nm世代については先ごろ月産1万枚のプロセスが立ち上がっており、今後早い時期に14nmの試作生産にも乗り出す考えだ」(大塚氏)
UMCは14nmプロセスについてはIBMからライセンス供与を受けており、14nm世代は2014年第3四半期をめどにパイロット生産に持ち込む考えだ。ちなみにIBMと日本のソニーは先端プロセスにおいてアライアンスを組んでいる。10nmプロセスはIBMとコンソーシアムを組んでおり、サムスン、STマイクロ、UMC、グローバルファウンドリーズ4社で次の世代を開拓していく考えだ。
「IDMが中心の日本であるが、フラッシュマイコン、ゲーム用チップ、パワー半導体、さらにはCMOSセンサーなどの受託に注力している。残念ながら日本においてはセットメーカーの存在感が薄くなっており、我々としてはやはり半導体専業のIDMと組むしかない。今日においてはパワーやアナログ系においても最先端プロセスが必要になっており、UMCの出番が来たと考えている」(大塚氏)
またUMCは微細化投資を引き続き行う一方、TSVなど3次元パッケージ分野への投資も積極的に行っている。同社ではシリコンインターポーザーを活用した、2.5D TSVとWide I/Oなどが用途となる3D TSV双方の開発を進めており、2.5D TSVはシンガポールにある300mm工場「Fab12i」を中心に進めている。現在月産1000枚程度の処理能力を有するが、これを2015年までに同1.4万枚体制に拡張する。
UMCにおける日本市場の売り上げ計画についてどう考えるのか、と大塚氏に問うたところ、こんな答えが返ってきた。
「ニッポン半導体が全体としてこのまま後退していくとはとても思えない。パワー系やMEMS、さらに車載マイコン、各種センサーなど強いところはいくらでもある。UMCの特徴は高耐圧に強い、不揮発性に強い、車載向けに強いなどであり、日本の行くべき方向性に充分にマッチングしていると思う。中長期的には日本国内の売り上げをワールドワイドの10%まで持っていきたいと考えている」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。