電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第77回

「売上目標立てない」「営業会議やらない」で売り上げ6倍の700億円


~病院施設の革新で躍進するセントラルユニの増田順社長の考え方~

2014/3/20

 「売上目標などは立てたことはない。社員の成長と顧客の幸せを徹底的に追求した結果としての数字が出てくる。実のところは営業会議すらやったことはない」

セントラルユニの増田順社長
セントラルユニの増田順社長
 こう言い放つ人はセントラルユニグループ(東京都千代田区西神田2-3-16、Tel.03-3556-1331)の増田順社長である。セントラルユニの前身は田中製作所小倉工場であり、1951年に北九州に誕生した。当初は8人の若者がガス溶断機をはじめとした鉄工関連事業をスタートしたことに始まる。60年代にはのり加工機の製造に着手し、医療ガスのセントラルパイプシステムも開発しメディカル分野に進出する。

 同社の歴史を要約したパンフレットを見ていたら、前身の田中製作所は給料の遅配もあり、とにかくボロ会社であったという。しかしながら、1971年に誕生した社歌は立派なものであり、何と作曲は「上を向いて歩こう」「こんにちは赤ちゃん」「黒い花びら」の作曲者である中村八大氏であった。当時はデューク・エイセスのコーラスで唄われたのである。

 「社歌が立派であっただけではない。企業映画『明日へ生きるごろんぼたち』を、創業25周年を迎え、社名をセントラルユニと改めた時(1976年3月)に作っている。この映画で繰り返し言われている“人間尊重”という言葉は、今日まで続いている経営理念である。ちなみに、この映画の監督は、記録映画で有名な野崎健輔氏であり、何とナレーションはかの久米明氏であった」(増田社長)

 さて今日にあってセントラルユニグループは、医療ガス供給システムと手術室の革新という2本の柱でメディカル分野を一大ターゲットに躍進を続けている。医療ガス供給システムはバルク系の酸素を中心に窒素、二酸化炭素などを供給する特殊設備となるものだ。実に国内で60%のシェアを持ち、インドネシア、韓国でも高いシェアを有し、世界50カ国に供給している。500床規模の病院新設の場合、ガスの配管は実に2万mにも及び、出入り口となるアウトレットは2000カ所も設けられる。病院によってすべて異なる仕様であるため、カスタム設計、カスタムパーツ、カスタムユニットが必須条件であり、要するに同社のノウハウはまずもって真似できない。

 手術室の革新もまた同社の重要な事業であり、これまた国内で60%の圧倒的なシェアを持っている。手術室の設計および施工については、常にメーンの設計およびゼネコン、サブコンがこれまで圧倒的な主導権を持ってきた。しかしながらセントラルユニは東京・湯島のショールームに、計画中の手術室の平面図をスピーディーに立体化する専用ソフトを作り上げ、現場で働くドクターやナースに見せニーズを拾い上げることで、事実上の主導権を取るに至っている。何とこのモデルルームに訪れる病院関係者は年間4000人にも及ぶという。つまりは手術室のみは別途発注というスタイルを築き上げていったのだ。

革新的なLED照明を実現した手術ルーム
革新的なLED照明を実現した手術ルーム
 「最近では検査・分析装置と手術部門をワンルームにするハイブリッド手術室が増えている。こうしたニーズにも充分対応できる。また、どのような機器の移動があっても、電源や配管を自由に変えられる設計にしている。そしてまた、手術室のLED照明については、画期的な光環境を実現した方式と設備を作り上げた。ものすごく明るいが全く目が疲れない仕様であり、演色性に優れるため赤や肌色の見分けが非常に良い。このLEDチップは日本製で徹底的に質にこだわっている」(増田社長)

 ところで増田社長は北九州市の出身であり、06年に社長に就任したが、セントラルユニは1996年から10年間にわたって業容がほぼ横ばいであるという低迷が続いた。しかし彼はその会社を率いて7年間という短い期間のうちに、売り上げを約6倍の700億円に引き上げたヒーローなのだ。重要なことは、彼がその事業領域を徹底的に医療施設向けのインフラに絞ったことなのだ。これだけの急成長を遂げただけに、どういう形の売り上げ計画を実行したのかと聞いたところ、前記のような答えが返ってきたのだ。そしてまた増田氏は実にユニークな考え方をする人であり、こうしたコメントも残している。

 「とにもかくにも面倒くさいことをどんどん増やしていけ、と現場には言っている。病院を作るということは、その当事者のユーザー様にとって、おそらくは一生に一度の買い物なのだ。それだけに、顧客ニーズを徹底的に拾っていく必要があり、つまりは面倒くさいことを次々と出してもらい、それを解決することが私たちの使命だと考えている。社員一人ひとりのモチベーションが高ければ、自然に売り上げは上がる。面倒な会議も必要ない」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索