電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第36回

半導体事業は今が売り時か?


相次ぐ経営統合・M&Aの背景を考える

2014/3/14

大型の企業統合相次ぐ

 M&Aや経営統合は半導体業界の常だが、最近はその規模・金額が大きくなってきているように思う。直近の案件を表にまとめてみた。

 Avago Technologiesは、LSI Corporationの買収に66億ドル(約6700億円)を投じる。司法判断などを経て2014年上期中に完了する予定。LSIの全社売上高は約25億ドル(12年実績ベース)であり、売り上げの2倍以上に相当する巨額を投じることになる。
 買収の狙いは、データセンター向けソリューションの充実にある。Avagoは13年6月にデータコムや通信用にInPベースの光ICやコンポーネントを手がけるCyOpticsを約4億ドルで買収するなど、エンタープライズやデータセンター向けのソリューションを強化・拡大中。一方、LSIは近年、ストレージと通信分野を主力とし、ネットワーク用プロセッサーやHDD用SoCなどに注力。11年10月には、今後のデータセンターでも採用が拡大すると目されるSSDのコントローラーを設計するSandForceを買収している。


 マイコンおよびアナログICが主力のMicrochip Technologyは、高耐圧アナログICやLEDドライバーICなどを手がけるSupertexを3億9400万ドル(約400億円)で買収する。Supertexの売り上げ規模は13年3月期で6100万ドルであり、売り上げ規模の実に6倍以上を投じることになる。MicrochipはもともとM&Aに積極的な企業だが、本件の狙いは、Supertexが持つ高電圧アナログおよびミックスドシグナル技術の獲得、加えて、売り上げの4割を高耐圧のマルチプレクサースイッチやMOSFETなどを供給している医療分野の顧客基盤ではないかとみられる。

 RF Micro DevicesとTriQuint Semiconductorは対等合併を主張し、株式交換で14年下期中に合併する。両社はパワーアンプやスイッチ、フィルターといったRFデバイスを広くラインアップしている。売上高合計は20億ドル強(13年実績)で、業界首位の米Skyworks Solutions(13年1~12月で約18.4億ドル)を上回る。通信インフラと軍事・防衛向けの売り上げは両社合計で約5億ドルに上るといい、トップクラスのシェアを確保する。

 こうした上位企業同士の統合、あるいは売上規模を大きく上回る買収からは「半導体事業は今が売り時か」とさえ思わせる。

Alix Partnersの予測

 先ごろ、コンサルティング会社のAlix Partnersは、半導体業界(太陽光発電を含む)の14年見通しをまとめた。同社は経営破綻した企業の再生業務を得意としており、海外ではゼネラルモーターズやワールドコム、Kマート、国内ではJALやライブドアなどの立て直しに関わってきた。同社が大手・準大手の半導体企業191社の財務を分析した結果、半数以上が財務面で苦境に直面するリスクを抱えているとし、M&Aでさらなる業界再編が進むと予測している。

 同社によると、半導体トップ5(Intel、Qualcomm、TSMC、TI、SK Hynix)が業界の売り上げの約1/3、EBITDAの52%を占めている。この5社の売上高EBITDA比率は41%で、残り186社の平均16%の2.5倍にのぼる。186社のなかで売上高EBITDA比率が10%以下の企業は81社にのぼる一方、売上高は7%近く縮小しており、今後キャッシュフローに問題を引き起こす可能性が予想されると指摘している。その打開策として(1)思い入れや過去のしがらみを排した顧客・製品ポートフォリオの見直し、(2)オーバーヘッドコストの徹底的な抑制、(3)サプライチェーンコストの削減、(4)プロアクティブなM&A戦略が必要と論じ、M&Aや経営統合の増加を予測している。

真の狙いは「コスト削減」

 M&Aや経営統合の思惑はそれぞれのケースによって異なるのだろうが、単に技術の補完や製品ラインアップの拡充、シェアの向上といった要素以外に、直近ではコストシナジー、つまりコスト削減要素を求める傾向が強まっているのは間違いないだろう。現に、RFMDとTriQuintのケースでは両社は2年で総額1億5000万ドルのコスト削減効果を見込んでいるほか、AvagoとLSIは統合の相乗効果として、15年11月までに2億ドルの運営費削減につながるとしている。Applied Materialsと東京エレクトロンの合併においても、両社が3年で5億ドルのコスト削減効果を見込んでいると発表したことも記憶に新しい。

 調査会社のIHSは、半導体産業新聞で連載中のコラム「グローバルアイ」のなかで、世界の電子機器・半導体市場の成長率のピークは14年だという分析結果を披露している(14年3月5日発行号に掲載)。スマートフォンやタブレット端末に続く成長の牽引役が見えず、市場の伸び率が低く抑えられる傾向が続くなら、金利が低く成長が望めるうちにコスト削減をという流れになっても不思議はない。

 14年は、業界があっと驚くような買収・統合劇が相次ぐ可能性が高いと考えざるを得ないのが実態といえそうだ。

半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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