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第31回

エレクトロニクス企業のビジネスモデルにも変革もたらす「電力システム改革」


2014/2/7

 家庭や店舗など、低圧受電の需要家への電力小売りの全面自由化や、電力会社の発送電部門の分離を柱とした「電力システム改革」を可能にする法案が、2013年末に国会を通過した。この電力システム改革が、エレクトロニクス企業にも新たな商機をもたらすものとして注目されている。

パナソニックと東芝が先鞭

 電力システム改革は3段階で行われていく予定で、第1段階は地域を越えて電気を融通しやすくする「広域系統運用の拡大」を15年をめどに実現し、第2段階は16年をめどに小売り参入を全面自由化(14年通常国会に法案提出)、第3段階では電力会社の送配電部門の法的分離と小売り料金規制の撤廃へと進むという流れになる。

 これを受け、様々な業種の企業が新電力(PPS)事業への参入を模索し始めた。従来の新電力事業者(エネットやオリックス、日本テクノ、商社系事業者など)に加えてガスや石油など電力以外のエネルギー供給企業、さらにはKDDIやソフトバンクのような電力以外のインフラ事業者の参入が予想されているほか、電力会社の間でも、電力システム改革の第1段階の広域系統運用拡大を目指し、従来のテリトリー以外の地域での事業展開を模索し始めた。中部電力と関西電力が、東京電力の牙城である首都圏での電力供給事業の開始を計画している。

 そして、エレクトロニクス機器メーカーも虎視眈々と電力事業参入の機会をうかがっている。エレクトロニクス機器メーカーにとってはあまり経験のない分野ではあるが、「千載一遇のチャンス」と捉えるメーカーは多く、新たな競争が始まろうとしている。

「パナソニック・エプコエナジーサービス(株)」設立記者発表で握手を交わすパナソニックエコソリューションズ社の井戸正弘副社長(左)とエプコの岩崎辰之代表取締役
「パナソニック・エプコエナジーサービス(株)」
設立記者発表で握手を交わすパナソニックエコソリューションズ社の井戸正弘副社長(左)と
エプコの岩崎辰之代表取締役
 先鞭をつけたのはパナソニックと東芝だ。パナソニックは、(株)エプコと手を組み、個々の住宅の太陽光発電システムからの余剰電力を買い取り、集めた電力をパナソニックグループ内企業や他の新電力事業者に卸売りする電力供給事業を行う合弁会社「パナソニック・エプコエナジーサービス(株)」を設立した。出資比率はパナソニック51%、エプコ49%。

 電力小売り自由化など、一連の電力システム改革をにらんで新事業に参入するもので、まずは現行制度でも実施可能な事業として太陽光発電付き住宅から電力を買い取る「家庭用太陽光アグリゲーション事業」を開始する。設立と同時に、経産省資源エネルギー庁に特定規模電気事業(新電力)開始の届出を行っている。住宅用太陽光発電システムや住宅事業を強みに持つパナソニックと、住宅向けの設備や太陽光発電関係の設計を年間約14万件処理し、コールセンターでは約100万戸の顧客管理を手がけるエプコの強みを融合し、これまでにはない電力買い取りのビジネスモデルの確立が大きな狙いとなる。18年度には50万件の契約を獲得し、売上高200億円を目指す。買取価格はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の価格にプレミアムを上乗せして買い取る予定。まずは関東と関西で実証実験を行い、14年夏ごろから本格展開していく。将来的には、住宅だけでなくコンビニエンスストアなど店舗の太陽光発電からの電力買い取りも視野に入れているほか、電力小売自由化を見据えたパートナー連携や幅広いエネルギーサービスの提供を検討していくという。パナソニックの動きは、これまでメガソーラーに比べ目立たなかった住宅用太陽光発電のアグリゲーション(集約)による電力事業を目指すという、これまでにないビジネスモデルであり、その成否が注目される。


 東芝は、ドイツ最大手の不動産会社ガグファ社と提携し、ドイツのフィーリンゲン・シュウェニンゲン市とオストフィルダン市において、同社が所有する賃貸アパートで太陽光発電を活用した電力小売事業を14年3月から開始する。年金基金などから投資を募り、ガグファ社が保有するアパートに東芝の太陽光発電システムを設置する。発電した電力は、小売事業者である東芝インターナショナル・ヨーロッパ社ドイツ支店(TIL)が購入し、配電事業者の売電価格よりも安価でアパートの居住者に売電する。夜間など太陽光発電が稼働しない時間帯は、TILが卸電力市場から電力を直接調達し、太陽光発電と同等の価格で居住者に売電する。開始時点の総発電容量は3MWで、750世帯に売電する予定。16年までにドイツ全域で100MWまで規模を拡大する構え。

 東芝が日本でも電力小売事業を行うかどうかは今のところ不明だが、このドイツでの事例のように、太陽光発電やスマートコミュニティ事業のサービスの一環として、電力小売を行う可能性は十分考えられるだろう。

 電力ビジネスに参入すれば、エレクトロニクス機器メーカー同士の新たな競争だけでなく、異業種企業との競争も発生する。そこで勝負の分かれ目となるのが、本業とのシナジーをいかに発揮できるかであろう。パナソニックのように太陽光発電だけでなく住宅事業も抱える企業は、そのシナジーを発揮しやすいといえる。現に住宅業界でも参入の動きが出てきている。ミサワホームは、住宅業界初の新電力事業の届出を行い、電力小売事業を開始することを発表。16年に予定されている一般家庭向けの電力自由化に向けて、ミサワホームオーナーへのサービス提供も検討していく構えだ。

 これ以外でも、12年以降にBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)やMEMS(マンション・エネルギー・マネジメント・システム)のアグリゲーター事業に参入しているエレクトロニクス企業の動きにも注目だ。BEMSやMEMSを武器に、マンションやテナントビル単位での電力供給事業を開始する可能性が考えられるためだ。

電力流通に欠かせないアイテムにも新たな商機

 スマートメーター(次世代電力量計)など、電力流通に欠かせないアイテムにも新たな商機が訪れることは間違いない。すでに電力会社が既存の電力量計をスマートメーターに徐々に切り替え始めているが、新電力事業者の家庭向け小売参入が増えれば、スマートメーターはさらに需要が拡大する。

 そうしたなか、スマートメーターの増産投資の動きも出てきた。富士電機は、スマートメーターの増産に向け、GE富士電機メーター(株)の安曇野工場(長野県)に自動生産ラインを新構築することを決めた。14年度と15年度にそれぞれ約10億円を投資する。13年11月に行われた東京電力のスマートメーター入札において、GFMが落札企業の1社に決まったことを受けたものだが、今後の需要増に備え、競争力を持つスマートメーターの生産体制を構築するため、設備投資を行う。

 さらに、クラウド対応ソリューションを得意とするIT企業にも大きな商機が訪れると予測される。新電力参入事業者を対象に、電力システムのスムーズな管理を手助けするクラウドシステムが今後必須アイテムとなる可能性が大きく、IBMやオラクル、SAP、富士通などIT企業がビジネスチャンスをうかがい始めている。なかでもIBMは、発電量と需要のマッチングを行うシステム「Virtual Power Plant」(VPP)を新電力事業者向けに拡販していく構えだ。このVPPは太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量を把握できるだけでなく、需要側とのマッチングによる需給調整が可能なシステムであり、今後増えるであろう新電力事業者には最適なシステムだという。

半導体産業新聞 編集部 記者 甕秀樹

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